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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合と狂犬のワルツ (番外編 )
23/39

4、予期せぬ誓い



「ほら、受け取りなさい 」


乱暴にとって渡したのは、隊長にだけつけることが許された勲章。

自分がデザインを変えさせまくって作った、薔薇の細工が施された美しいものだった。


「本来ならば、もっと早くヒューは団長なれていたんだよね。…ごめんなさい 」

「隊長、頭を上げてください 」


恐る恐る顔を上げれば、ヒューバートは申し訳なさそうに微笑んでいる。

それを見て、リリアは脱力した。


いつもそうだ。こいつは、良い人すぎて時々心配になってしまう。

散々人に騙されて、利用されて良いように使われてしまうタイプの人間だ。

だから、私のような者の部下として、十分すぎるほど良くやってくれた。


「僕は、貴方の元で働くことができて、本当に良かったと思っています。 それに、一番弟子の成長を見守ることができて嬉しかったし 」

ニコニコと笑うヒューバートの言葉には、裏がなくほのぼのとさせられる。

あぁ、やっぱりコイツは癒されるなぁ、とリリアもあたたかい気持ちになった。


「そう言ってもらえると、とても嬉しい。ありがとう、ヒュー 」

「えっと、その、どういたしまして。 それで、隊長は、今後どうするんですか? 」


あぁ、と言いながら、どこまで伝えようかと考えた。

父である国王には、とりあえずは国内を見て回りたいとか適当なことを言ってきた。


自分は最終的に、帝国へ行くのだ。

それまでに今までの自分のしがらみを、どうにかして全て清算しておきたい。

だから、いついかなる時も自由に動けるようにしておきたかったのだ。


「当分の間は、国を見て回ろうかと思っているの。 姉上はもういないから、私が緊急で呼び出されることもないでしょう 」

精一杯の笑顔を、と笑ってみたが思うようにはいかず、なぜが視界が歪んだ。

あぁ、だめだ。帝国で、私の涙腺は壊滅的に破壊されたらしい。


帰って来てからずっと感じていた違和感。


考えないようにしてきた。でも、だめだ。

だって、城を見て回ってそれは決定的になった。

18年間ずっと一緒だった人がいない。


それは、リリアにとって、この城を酷く寂しいものにさせていた。


「僕が、います 」

「え? 」


先ほどまで微笑んでいたヒューバートは、真剣な表情になっていた。

気がつけば、右手を握られていたようで、そこだけが酷く熱い。


すっと跪いたヒューバートの顔は今まで見たこともないくらい真面目なもの。

その瞳の奥に熱を感じたリリアは、ビックリしすぎて涙が引っ込んだ。


あのヒューが、なんかすごく真面目な顔してる!?

なんだろう、すごく大事な話な気がするけど、これを聞いてはいけない気がする。


本能的に身を引こうとして、掴まれた手に引っ張られた。

「もう、僕は逃げません。だから、リリアも逃げないで 」

突然呼ばれた名前に驚いてリリアは目を丸くする。


リリアという呼び方は、剣の訓練の時だけのものだ。

身分も、肩書も関係ない。ただ一人の人間として対峙するときには名前で呼ぶと、そうューバートは言った。

だから、訓練場以外でヒューバートがそういう呼び方をすることはなかった。

でも、今はちがうらしい。


リリアが逃げないと分かって安心したのか、ヒューバートは手を離した。

そして、改めて跪いて首を垂れる。それは、騎士が忠誠を誓うもの。

いつかのアレクシスが、リリアを守ると誓った時と同じ姿勢。


凛とした瞳をリリアに向けて、ヒューバートは迷うことなく言った。

「ヒューバート・ジュリスの生涯をかけて、リリア・ルイ・ソワールに忠誠を誓います 」

そうしてリリアの右手を掴み、そっとキスをした。


騎士の誓い。生涯の忠誠。

それは己の主たる人と、花嫁となるべき女性に対してのみ許される儀式。

そして、私はもちろん主である国王ではない。と、いうことは?


「リリア、僕のお嫁さんになってください 」


控えめに微笑むヒューバートの顔は真っ赤。

対する私の顔は、冷や汗をかいて真っ青だった。


どうしよう、アレクシスになんて手紙を書こう!!



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