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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合と狂犬のワルツ (番外編 )
22/39

3、剣の師匠へ恩返し



「ふぇっ、いたーいっ!! 」

「隊長、大丈夫で 」


「ばかめっ!! つかまえたああああ 」



城中を騒がせての逃走劇は、リリアの転倒で呆気なく幕を閉じた。

ちなみに、この転倒がガチ転びだったのは、リリアだけの秘密だ。


ヒューバートの腕をつかみ、近くの部屋に引きずり込んだ。

その時のリリアの顔は、あの時と同じように勝利を確信した表情だった。




15歳のあの日。ヒューバートを己の野望の道に引きずり込んだリリア。

結果として、彼は思った以上に最高の指導者だった。


剣の訓練に関して妥協は許さず、リリアの身分も気にせずビシバシと鍛えてくれた。

だから、時間も気にせず2人はひたすら深夜まで訓練することができた。


しかし、未婚の男女が深夜に2人きりという状況がとがめられなかったわけではない。

だが、そもそもヒューバートが呼び寄せられた理由が理由であるため、それほど言われることはなかった。

むしろ、両親はそのことを酷く喜んでいた。ようやくリリアにも春がきた、と。


リリアにとって、その誤解は非常にありがたいものだった。

これならば、昼夜問わずヒューバートに張り付いて特訓することができるのだ。

今だけ、訳の分からない噂が立つのも許してやろう、と酷く寛大な気持ちだった。


まぁ、その時期の姉が非常に荒れまくって「紅薔薇暗黒期」とまで言われたのは良い思い出だ。

だって、私あんまり被害受けなかったしっ!!





ヒューバートを部屋に引きずり込んだまでは良かったが、完全に息が上がっているためすぐ会話ができない。

それに対して、目の前の赤毛の男は息ひとつ乱さない。


あぁ、こういうところが、男と女の違いなのかとリリアは悔しくなる。

でも今更そんなことを嘆いても仕方がない。

早く、会話をしなければ。次に逃げられてしまったら、今日はもう諦めるしかない。


「よくも、にげて、くれた、わね… 」

「も、もうわけありません。その、覚悟ができなくて… 」


やはり、話がいっていたのかと溜息をつく。

私の知らないところで話を伝えるとは何事か、まったく。

ようやく、息も整ってきた、と真っ直ぐにヒューバートを見た。


あの頃とは違う、奇麗に切りそろえられた赤毛からは、爽やか美形な顔がのぞいている。

身長もずいぶん伸びて、頭一個半くらいまで高くなった。

体にピッタリとあった軍服は、ヒューバートの鍛えられた体をよく見せてくれた。

若い娘からは熱い視線を送られるリリア自慢の副隊長さま。

我ながら見事なプロデュースだ、とニヤニヤした。


ヒューバートがリリアの剣の師匠ならば

リリアはヒューバートの外見磨きのプロデューサーだ。


半年で20人斬りという名の昇進試験に見事合格したとき、リリアはヒューバートの副隊長推薦を決めた。

相談相手にして、仕事のパートナーとなる副隊長には絶対的に信頼できる相手が良い。

それに、剣の師匠としてこれからもヒューバートには傍に居てほしいと思ったのだ。


しかし、それは酷く身勝手で、自分本位な願い。

だから断っても良いと言って提案した。だけど、ヒューバートは良いと言ってくれた。

一番最初の弟子の面倒を見たいと、つっかえながらも噛みながらも伝えてくれた。


聖騎士になりたいという夢を、少しの間だけ先延ばしにすると言ったのだ。



だからリリアは、ヒューバートに隊長位を譲りたいと思った。

聖騎士になるには、団長・隊長をある程度経験しなくてはならない。

しかし、親衛隊に移動してしまったヒューバートはリリアが居る限り副隊長にしかなれない。


自分のために副隊長という地位に何年も甘んじさせてしまった。

第一騎士団に居たならば、もうとっくに騎士団長にだってなれていただろうに。


だから、自分が隊長位をヒューバート譲ることは、突然でもなんでもなかった。

姉の結婚が決まり、騎士で居る必要がなくなったときに決めたことだった。



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