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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合と狂犬のワルツ (番外編 )
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2、私たちのはじまり



出会いはヒューバート17歳、リリア15歳の時だった。

元々、第一騎士団という超エリート職場にいたヒューバートは、短期間の研修という形で親衛隊にやってきた。

その裏には、公爵家の次男ヒューバートと二つ宝の姫君との顔合わせ(ロマンス込み)という親同士のよからぬ画策があったらしい。

しかし、ロゼッタはあのようにロゼッタであったし、リリアもリリアらしくそうであったため彼女たちにはロマンスの欠片もなかった。


それどころか、ロゼッタは「一人称が僕なんて奴は、大抵腹黒だから消えろ」などと毒を吐きまくった。

リリアは、姉の害虫としてヒューバートを点数評価してパラメーター作って、徹底的に監視した。

だから、彼女たちにしてみれば、ヒューバートはただの邪魔者でしかなかった。

そんな恐ろしくも美しい二つ宝と関わってしまったヒューバートは、哀れとしか言いようがない。


しかし、リリアには一つだけ彼に対して、気になるところがあった。

それは、将来の聖騎士とまで噂されるヒューバートの剣の才能。

騎士として気にならないわけがなく、リリアとしてはぜひとも一度お相手を願いたいところだった。

そう思っていた矢先に、念願だったリリアの昇進試験が決まった。



「20人斬り… 」

親衛隊20名を、剣でひれ伏せば隊長として認めてやるという。

国王の弟であり、現隊長であるリリアの伯父は、そう言って豪快に笑った。


親衛隊は、王族とつながりのある者たちが集められることが多い。

王族に付き日々の警護をする役目。城の中に居ることが当たり前の彼らは、やはり親戚や関係者が多い。

そのため、騎士団の中でも比較的、穏やかな者が多かった。


「第一や第二じゃないだけ、まだましだろう 」

「…そうですね 」


うんざりしながらも、リリアは必死で笑みを作った。

このヒゲ親父、絶対に痛い目に合わせてやる。ぜったいに、おぼえていろ!!


騎士団には三つの種類がある。

超エリートの第一騎士団は、首都や城周辺の警戒警護。

たたき上げバリバリの第二騎士団は、地方の警戒警護。

そして、絶対貴族の親衛隊は、城の中に居る王族の警戒警護。

騎士になるものはこれらのどれかに入らなくてはならない。

他には、個人でありながら一個騎士団と同等の権力をもつ「聖騎士」という称号もある。


それらの中で考えれば、確かに親衛隊というのは、まだましと言えるだろう。

しかし、それは、まだましという程度だった。


「その20人は、私が選んでも良いのですか? 」

「お前、馬鹿か。俺が選ぶに決まってるだろう 」

呆れたように言われて、そりゃそうだ、とリリアはがっくりと肩を落とす。


親衛隊の中には、明らかに護衛というか身の回りの世話的な役割の騎士もいる。

いわゆる、非戦闘員というやつだ。彼らは、城の中で騎士でありながら同時に世話役としての役割も果たしている。

それとは逆に、バリバリの戦闘要員というやつもいる。

本来ならば第一騎士団にいても良いような輩がいるのだ。


まずい。非常にまずい。

リリアは自室でウロウロとしながら考えた。


40名中、非戦闘員は10名。それ以外は、全員が戦闘要員だ。

そのうち、非常にヤバいのが5人。明らかに、ここに居たら宝の持ち腐れ的な技量の持ち主。

もしも、そいつらの一人にでも当たったならば、今のリリアには勝ち目はない。


でも、私はこんな所で諦めるわけにはいかないのだ。

ぐっっと腹に力を込めて、姿勢を伸ばして歩く。


13歳で親衛隊入りしたリリアは騎士3年目、今年で16歳になる。

王族だから女だからという理由で甘くしてもらえるほど親衛隊は優しい場所ではない。

他の騎士たちと同じように切磋琢磨し、リリアは己を鍛えてきた。


周囲の目が厳しかったのも事実。

それでもリリアは、一つの明確な目的を持って親衛隊に入った。

それの実現のために、ひたすらに今まで頑張ってきたのだ。

だから、こんなところで負けてはいられない。


試験まで半年の猶予をもらった。

果たして、このわずかな時間で自分がどれだけ強くなれるのか分からない。

でも、やれるところまでやってみるしかない。


「それにしても、誰にお願いすれば… 」

隊長である伯父は、試験までの間、誰かに剣の特訓でもしてもらえばよいと言った。


リリアが望むのは、半年で今の自分を極限まで強くしてくれる師匠だ。

それこそ、ビシバシと鍛えてくれる相手が良い。

できたら、ものすごく強いと良い。


該当するとしたら、伯父である現隊長。各騎士団の団長。それに、聖騎士。

その全てとは一応顔見知りではある。しかし、彼らはリリアが騎士になることに対して良い顔をしていない。

姫君は姫君らしく。彼らにそう言われたのは一度や二度ではない。


そんな彼らに、昇進試験の特訓など頼めるはずがない。

ああ言った伯父も、リリアの特訓を真面目にするつもりはないのだろう。

ただ、面白がって見てるだけ。そしてそれは、他の者たちも一緒。


あーもー、なんとかならないかな!!と乱暴に部屋のドアを開けると誰かにぶつかった。

勢いのあったリリアは転ばなかったが、ぶつかった相手は転んでしまったようだ。


「ごめんなさい 」

慌てて相手に手を伸ばして、相手を確認する。

そして、リリアはニヤリと笑った。


いつもは見上げるソイツを、今日は見下ろすことができて良く観察することができた。

適当に伸ばされた赤毛は顔を覆うほど伸びており、非常にさえない。

大きめの軍服のせいで華奢に見える体。でも、手だけは手袋越しで見てもごつごつとして大きい。

そして、腰に差している剣は国でもっとも腕の良い職人が彼の為だけに作った美しい芸術品。

あぁ、そうだ。こいつは天才とやらだったのだ。


よいしょ、とひっぱりながら立たせてやれば、頭一個分上に顔がある。

親衛隊に来てからまともに話したのは数えるほどしかない。

姉と一緒の顔合わせと、その後の素行調査でくらいだ。

性格は姉の第一印象とは真逆。人の好い、ただの凡暗。

剣技以外に何一つ取り柄を持たない、正真正銘の剣馬鹿だった。


「いえ…その僕の方こそ、気を付けておらず、もうしわけありません 」

「いいの、気にしないで。あ、でも、申し訳ないとか思っているんなら 」


ならば、きっと、コイツは使える駒になってくれることだろう。

私にとって、今コイツ以上の人材はありえない。


「私のお願い、きいてくれるわよね 」



そうほくそ笑みながら、ヒューバートの腕をつかみ部屋に引きずり込んだ。

その時のリリアの顔は己の勝利を確信したものだった。



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