2、偽花嫁の出陣
「7日以内には、必ず行くから。ごめん 」
そう言って見送る姉は目に涙を溜めていた。
そこで私が感動したことは3つ。
「ごめん」という謝罪の言葉。
二度目になるであろう涙。
そして、姉のお見送り。
そのどれもが今までの姉からすると考えられないものだった。
感動する私の頭には、恋って、結婚ってすごい!!という驚きしかなかった。
こんなにしおらしくなってくれるのなら、姉はあと3回ほど結婚するべきだろう。
「待っています。来なかったから、結婚なんてぶっ壊してあげますから 」
本気の脅しをサラリと投げつけて、さっさと馬車へ乗り込んだ。
意味もなく窮屈なドレスを着せられて長旅をさせられるのだ。
これくらいの脅しは許されるだろう。
なぜなら、もしもの場合、全体的に被害を受けるのは自分だ。
まぁ、そんなこと絶対に許さないのだけど。
船に馬車と乗り物を変えて、国を出てから4日後に王宮へとたどり着いた。
比較的ゆったりとした旅であったから、姉が来るとしたら2日で着くことだろう。
長い長い廊下を歩きながら、これからのスケジュールを考える。
とりあえず、姉の将来の旦那様を見る。それから、点数評価してパラメーター作って…
あ、いけない。候補者ではないのだ。今までの流れでついやってしまいそうになった。
そうだ。姉が恋をした相手なのだから、それだけで及第点だ。
どんな相手が出てこようとも、私には関係ない。祝福するだけだ。
あなたの人生は終わりましたね、と皇帝とやらを祝ってやるだけだ。
横を見れば、帝国の騎士が私の歩幅に合わせて歩いている。
3日間の旅路でこの騎士がしゃべったのはたった一度だけ。自分の名前と所属を伝えたときのみ。
それ以外は、しゃべらずにただじっと私の護衛をしていただけ。
いや、護衛というのは正しくない。正確には監視だ。
姉でなくて本当に良かった。
姉はこういうあからさまに馬鹿にされた態度を取られるのは嫌う。
きっと、食って掛かって「あんた、気に入らない!!」と喚き散らすのだろう。
頭に着けているもののせいで顔もよくわからない騎士。
名前も忘れてしまったが、ただの置物のような奴の名前なんて知らなくていいのだ。
この国にも、二人の結婚を良く思っていない輩がいるとわかっただけで十分。
それらの排除も、できるかぎりやっておきたいものだ。
訳が分からないほど長かった廊下の突き当たり。
煌びやかな装飾のされたこの扉の向こうに、私がとりあえず一番見てみたい人物がいる。
一つ息を吐いて顔を上げた。
ばれるのならば、ばれてしまえ。
それでも尚、姉が欲しいというのならば皇帝には満点をくれてやろう。
私は姉の幸せのためならば、協力を惜しまないのだから。