17、長い長い7日間の終わり
私の帰国を承諾したくせに、それからのアレクシスはやっぱり未練たらたらだった。
事あるごとに引き留めようと必死で、その度にイラッとしつつも愛されてるんだなって嬉しくなった。
恋するってのも、色々と忙しいのね。
なんて、一人ごちているうちに、帰りに準備が整った。
7日目の朝。
アレクシスの妨害を受けながら、私はようやく帝国領の港へ着いた。
最後に姉の花嫁衣裳を見ることができたから、もう十分に私の役目は果たしたはずだ。
今日、姉は正式に結婚をして、帝国の王妃となる。もう紅薔薇の姫君と呼ばれることもない。
また、すぐに会えるとは分かっている。だけど、次に会う時は姉のための騎士ではない。
そう考えると、やっぱり寂しいと思ってしまう。仕方のないことなのだろうけど。
「この船に乗れば、お別れです 」
そう言いながらも、アレクシスの手は私を離そうとはしない。
それどころかぎゅうぎゅうと、強い力で握ってくる。
「…離してくれないと、困るのだけど 」
「知ってます。えぇ、分かっています。だからですよ。リリア様、俺のせいで困ってください、ぜひ 」
非情にふざけたことを言いながらも、アレクシスのその瞳は寂しさを隠そうとしない。
うん、そうだね。寂しいのは私だけじゃないんだもんね。
「俺が一緒に行けたらよいのですが… 」
「流石に、団長様が国を空けたら、まずいでしょう 」
そろそろ行かなくてはならない時間だ。しかし、アレクシスは手を離そうとはしない。
何かを期待している目をしているんだけど、なんだろう。
あ、そうか。わかったぞ!!
「アレクシス、ちょっと 」
「はい? 」
アレクシスに屈んでもらい、私は必死に背伸びをする。
そうして、ようやくというところで、私は自分の唇を彼の唇にそっと当てた。
「誓いのキス 」
照れながら言えば、ぽかんと呆けたような顔のアレクシス。
それを見て、彼の期待していたものでなかったのか!?と後悔するが遅い。
まぁ、いい。してしまったものは、もう戻せないのだ。
これ以上のサービスは、ありませーんだ。
「一年会えないからって、浮気しないでね 」
「当たり前です。むしろ、リリア様、貴方が心配です 」
そう言って険しい表情になるアレクシス。
あぁ、もしかしてまたしても魔王様なのか。
「良いですか、何があっても貴方の害になりそうな者の傍に近づいてはいけません 」
「だから、それはロゼッタの勘違いで… 」
きっと一睨みされて、私は何も言えなくなる。
うぅ、やっぱり魔王様のアレクシスは怖いなぁ…。
「俺は貴方の国に攻め込むなんてしたくないんです。だから、必ず帰ってきてください。あと、何かあったら手紙を、もちろん何もなくても手紙を忘れずに 」
「わかった。 毎日、アレクシスのこと考えて、海の向こうへのお祈りも忘れない。できるだけ早く帰ってくるから 」
そこまで言って、ようやくワンコの笑みを見せてくれたアレクシス。
つられて私も笑う。だけど、すぐに歪んで泣き顔になってしまった。
あぁ、この国に来て私はとても泣き虫になってしまったようだ。
そんな私を見て、彼はよしよしと頭を撫でてくれる。
「帰るの、やめますか? 」
「やめない。全部片付けて、真っ新な私になって帰ってくる。それで、アレクシスのお嫁さんになるの 」
よくできました、とばかりにちゅっとキスされて、涙は止まる。
当分は会えないんだ。しっかりとその笑顔を目に焼き付けておこう。
一番大切な人の笑顔は、これからの私の支えになるだろうか。
「じゃあ、行ってきます。私の騎士様 」
「いってらっしゃいませ、俺のお姫様 」
そうして、私の長い長い七日間は、終わりを告げたのだった。




