15、言語的意思疎通を希望!!
ここからどんどんとデレが入ります。
ぎゅうっと抱き締められている感触はわかる。
ちゅ、ちゅ、とおでこや頬に唇を当てられる感触もわかる。
でも、アレクシスが今言ったことがよく分からない。
「アレクシスは、私が好きなの…? 」
「はい。 何度でも言いましょう。貴方が好きです。どこにもやりたくないくらいに、好きです 」
そう言って、また目元にちゅってキスされて、ようやく私はやられたい放題のこの恥ずかしい状況を察した。
なんでだ、どうしてこんなに密着しているんだ。このアレクシスは何処から現れた。
だって、さっきまでワンコで魔王様だったはずだ。こんなわけ分からんメロメロ野郎じゃなかったぞ!!
「ちょ、待って…。え、なんで 」
突然のハプニングに弱い私は、悪いけどこの展開についていけない。
はっきり言って、間の繋がりがまったくわからない。
「アレクシスのあの言葉は、えっと、友達っていうか人としてで、恋とかじゃないよ、ね 」
「誰がそう言ったのですか? 」
冷ややかな声が頭の真上で聞こえて、思わず小さな悲鳴がもれる。
声色にも冷気を漂わせることができるなんて、やっぱり魔王様だ。
「だって、全然そんな感じしなかった…私のことを思っているっていう返事の仕方じゃなかった、じゃない 」
言っているうちに、自分がみじめに思えて涙がでてきた。
そういえば私、失恋してから涙も流さなかったんだ。
「それは、その…、…すみません 」
謝罪と共にすりすりと頭にほおずりをされている。
くすぐったくて、思わず笑ってしまう。それを見てホッとしたようなアレクシス。
「貴方の言葉で、初めて自分の思いが自覚できて、嬉しかったんです。それまでは、自分の感情の起伏に悩んでいたんです 」
「それって、笑ったり怒ったりっていう感情のこと? 」
「はい、そうです 」
感情に悩むというその意味が、よく分からない。
だって感情の起伏なんて、誰にだってあることじゃないの?
「俺は、人よりも感情の起伏がないんです。何というか、生まれのせいで、あまり感情をださないように生きてきましたから。 だから、貴方と一緒に過ごして、嬉しくなったり悲しくなったり憤ったりして、その理由が貴方に惹かれていたからだって分かって嬉しくなったんです 」
皇帝の弟でありながら、王族ではないという複雑な身分。
それは、アレクシスにどんな過酷な環境を強いたのだろう。
そう思うと、この人が可哀そうでたまらなくなった。
「悲しんでくれるんですか? 貴方に気にかけてもらえるならば、今までのことだって意味を持ちます。 そう、俺の感情は、全部貴方に繋がっているんです 」
そう言って、今度は頬にちゅっとキス。
…あのさ、ちょっとやりすぎなんじゃないの。
「顔が真っ赤ですよ。そういうリリア様も可愛い 」
さらっと恥ずかしいことを言うアレクシスに悶絶してしまった。
誰だ、コイツ誰だ!! ワンコでもない魔王様でもない、第三の何か!!
「なんか、すごい恥ずかしいんだけど… 」
「そうですか? 俺、こういうの初めてで、加減とかよく分からなくて… 」
「え? アレクシスもなの 」
無いと思っていたけど、もしかしてアレクシスも初恋なのだろうか。
だとしたら、ちょっと嬉しい。ううん、とても嬉しい。
「リリア様も、ですか 」
う、そのとろけそうな顔で微笑むのやめて。ピカピカ光って眩しい!!
また頭に頬ずりすんのもやめてよね。
恥ずかしくてなんだかよく分からないけど、どうやら私たちは両想いだったらしい。
そう自覚するとじわじわと私の中にも嬉しい気持ちが膨らんでいく。
一度諦めた恋だった。
でも、諦めなくて良いんだ。
そう思うと嬉しくて、やっぱり涙が出た。
「どうしました 」
泣き出した私を見て、アレクシスはあわてた様子だ。
あぁ、いけない。ビックリさせてしまった。
「私も、嬉しいの。こうやって、言ってもらえるなんて思ってもみなかったから。だから、ありがとう 」
「いいえ、こちらこそ。貴方の言葉がなければ、俺はずっと気づけないままだった。ありがとうございます 」
そう言ってまた、ちゅっちゅっとキスを至る所に振らせてくるアレクシス。
嬉しいのはわかる。わかるんだけど、ちょっとその表し方がなんか…あ、変なとこ触るな!!
「俺と一生、一緒に居てください 」
「…うん、私も一緒に居たい 」
ちょっと、くすぐったいんだけど。ちゅっちゅしすぎだよ。
なんか、箍が外れすぎていて、この人誰だかわかんない。
「じゃあ、今すぐに俺の花嫁になってくださ 」
「あ、それ無理。一度国に帰らなきゃいけないからっ!! 」
キスやら頬ずりやらでもみくちゃにされていた私は、必死でそれを叫んだ。
その途端、ピタッと一連の動作が止まる。
「それは、どうしても、ですか 」
「えぇ、今回は姉の見送りという形で此処に来たから 」
「このまま、残ってしまえばいいじゃないですか 」
「え? 」
軽々と私を抱きかかえて、アレクシスはソファに座る。
横抱きで、抱えられるようにして座れば、私とアレクシスの視線は同じになった。
「明日のロゼッタ様の結婚式と一緒に、俺たちの結婚式もしてしまいましょう。そうすれば、貴方はこの国に永住することができる。ほら、良い考えでしょう 」
その言葉は、さっきまで姉が私に言っていたこととほぼ一緒だった。
私の都合を一切考えていないところが、なんとも悲しい。
「それは困る。私の後任の件もあるし、何よりも国交という意味で一度筋を通さなければいけないわ 」
「それは、この国にいてもできることでしょう。 俺、もう貴方を離したくないです 」
そう言って、話はここで終わりとばかりにおでこへちゅっとキスをしてきたアレクシス。
くそぅ、このままでは良いようにされてしまう気がする。
「そんなの、私が嫌です。それにちゃんと両親に話をしていないでしょ 」
「だから、結婚してから行けば良いでしょう 」
「なんかちがーうっ!! 」
苦しい言い合い。平行線上の争い。
でも、私、絶対に負けるわけにはいかない。だって、これは私のけじめだから。
私の態度に痺れを切らしたのか、アレクシスは溜息を一つ。
あ、良いよって言ってくれるのかな。やっぱり、アレクシスはワンコだもんね。
「では、確かなものをください 」
「…証書でも作ればいいのかな? 」
「いいえ 」
あれ? なんで、私を抱えたまま寝室に行くの。そこに何かあるの?
アレクシスの言いたいことが分からない私。そっと降ろされたのは、ふかふかのベッドだった。
えっと、なんでベッド? 書類とかは机の上でだよね。
「貴方が俺のものだという、絶対的な証をください 」
跪いて、ベッドに座る私の手にキスをするアレクシス。
その瞳は騎士が主に忠誠を誓うように真摯なものだった。
アレクシスが、こうやって痛いくらいに私を大切に思ってくれているのはわかった。
でも、この状況で私があげられるものってなんなんだろう。
「わかったわ。でも、私があげられるものって大したものないわよ 」
私の私物のほとんどは、まだ自国に残っている。
だから、今の私にアレクシスに渡せるようなものは無い。
「あります。俺は、それを頂けるならば、いくらでも待ちましょう 」
「そう。じゃあ、私にあげられるものだったら、いいわよ 」
私がにっこりと答えれば、跪いていたアレクシスが妖しく笑った。
…あれ?なんだかよくない笑いだぞ、これは。
「では、貴方の「初めて」を、ください 」
そう言って、愛しいワンコはオオカミとなり、私をベッドに押し倒した。




