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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合狂想曲 ( 本編 )
11/39

11、身代わり姫の顛末



それからの私は大変だった。

自分でもわかるくらい酷かったから。


剣を放り出してとにかく泣いた。姉に抱きついて泣けるだけ泣いた。

クズクズと、姉のドレスが汚れるのもはばからず大泣きした。

しかも、泣きながらいろんなことを言った。


「けっこんしないで」「おいていかないで」「ひとりにしないで」

「さびしい」「かなしい」「くるしい」「あいつ、きらい」「でも、すき 」


わんわんと泣きながら良くこれだけ言えたものだなぁと自分でも驚いてしまう。

そんな私を、突放すことなく姉は抱きしめてくれた。言葉一つ一つに答えてくれた。

それがまた嬉しくて、私は涙を止めることができない。


「ごめんね、リリア。 私、いままで甘えすぎていたんだよね 」

優しい姉の声を聞きながら、私はそのうちに眠ってしまった。





目を覚ませば、そこは知らない部屋だった。

どこだここ、と考えて自分の場所を思い出した。


あぁ、そうか。私、散々泣いて眠ってしまったんだ。

姉の腕の中でそのまま寝てしまったのだろう。うぅ、恥ずかしいことだ。


かつらはとれており、服も姉のドレスではなかった。

部屋が変わったということは、私の身代わり劇は終わったと思って良いのだろう。


姉は無事にたどり着いた。

だけど、まだ相手である皇帝は、まだ見つかっていない。


どうしよう、姉にがける言葉がない。



グルグルと考えていると、ドアがノックされた。

姉だ!!と、条件反射ですぐに返事をしてから後悔。

あぁ、姉への言葉を考えていなかった!!


案の定、ドアから覗いた姉は暗い顔をしていた。

そりゃそうだ。婚約者が行方不明なんて、そんな現実は受け入れがたいだろう。

なんとか姉を慰めようと私が口を開く前に、姉が頭を下げた。


「来るのが遅れて、ごめんね 」

「え? 」


そう言って姉が、ドアの方を振り向けば一人の男が入ってきた。

アレクシスとよく似た容姿。だけど、全然違う雰囲気。

気の強い、絶対に他者への敗北を許さない強い瞳に、への字に結ばれた口。

あぁ、きっと、この人がそうなんだ。


「遅れたこと、詫びよう 」


詫びながらも頭すら下げない男を見て、思わず私は微笑んでしまう。

天上天下唯我独尊。傲慢!尊大!超俺様!なその態度。

だけど、姉の手をしっかりと握っているその姿は、満点以外つけられない。


よくやった姉よ。

貴方は、どうやら一番幸せになれる相手をみつけたようだ。


「そのようなことの詫びなど結構。一つ貴方が詫びるならば、それは 」



大切な人だった。

バカみたいに真っ直ぐで、無駄に優しくて、悲しいくらい不器用な姉。

世界で一番美しくて、そして可哀そうな人だった。

そんな人を守れるのは、私だけだと信じていた。でも、今はもう違うんだ。


私は、もう必要ない。



「私から、姉を奪うことだけです。 …2人とも、幸せになってくださいね 」


笑うことのできた私も、多分、今幸せそうな顔で微笑んでいるに違いない。

だって、そうでなきゃ、姉のこんなに嬉しそうな顔を見られないもの。



さてさて、事の顛末を少しだけ。

行方不明の馬鹿皇帝がどこにいたかというと、なんて最初に私の傍にいたというから驚きだ。

私が散々、感じ悪いと思った顔の見えない騎士こそが、婚約者にしてこの国の一番偉い人だったのだ。

それからは、騎士に紛れて宰相の動向を見張っていたとか。

ちょっと、突拍子もなさ過ぎて最初は信じられなかった。

だけど、本人がそういうのだからそうなのだろう。


「敵を騙すには、まずは味方からを完璧にだまさないと、な 」


悪びれもせずしれっと言い切るこいつは、本当にむかつく。

だけど、姉を愛しているというのは十分わかる。わかるから早く姉を膝から降ろしやがれ。

姉も嬉しそうに頬を赤らめるなっ!!


元々、宰相の不穏な動きには気づいていたらしい。

エーデルハイド家との裏のつながりも調べていた。

だけど、決定的な証拠が見つからない。そこで、考えたのがおとり作戦。


姫の身代わりとして、ある程度腕の立つ私を使い、悪い奴らを一網打尽!!の計画だったそうだ。

普通ならば、おとりになる私にはある程度の情報は渡されるべきだろう。そうだろう。

だけど、先ほどの馬鹿皇帝の「味方を完璧にだます」という考えから私には伏せられていたそうだ。


こいつ、本当に、どうにかしてやろうか。


しかも、作戦をアレクシスも知らなかったそうで、彼への命令は1つ。

とりあえず、ロゼッタ姫を護衛して守り抜けって簡潔なものだったらしい。

だから、彼は騎士団長という地位にありながら、せっせと私の世話をしてくれた。


おかしいと思ったのだ。

団長クラスとなれば、そんなに暇なわけない。

なのに彼は資料集めや護衛などで一日のほとんどの時間を、私と過ごしていた。

嫌な顔一つせず、まるで楽しいとでも言うように過ごしていた。


だけど、それはただ主たる皇帝からの命令だったからなんだ。



…別に、悲しくなんかない。




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