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白百合狂想曲  作者: シズカンナ
白百合狂想曲 ( 本編 )
1/39

1、最愛にして最悪の姉


「私、やっぱ怖い!! 」


最愛にして最悪の私の姉は、結婚を目前にしてそんな暴言を吐いた。

その言葉はあまりにも最悪で私は瞬時に意味すら理解できなかった。いや、したくなかった。

でも、渡されたのは姉がいつも着ているドレス。そして、金色のかつら。

それが示すところを悟った私はもうこの人爆発すればいいのにと本気で願った。


でも、私は何も言わずにそれらを受け取った。

いや、受け取るしかなかったのだ。

初めて見た姉の涙目は、それくらいの威力と破壊力があった。


そうして私は、身代わりの道をしぶしぶ選ぶことになった。




私の姉は、近隣諸国、いや大陸中にも名が知れ渡っている美姫である。

宝石姫、至宝の姫君とまでもてはやされた美貌は過言ではない。

そう、見た目だけならば私の姉は世界で一番美しいだろう。


でも、中身は?と言われたら、閉口せざるを得ない。

なぜならば、姉の性格が天上天下唯我独尊。傲慢!尊大!超俺様!

外見は美しいけど、中身にかなり難ありの至極残念な人なのだ。


そんな姉が結婚すると言い出した。

海の向こうの大陸にある、とある帝国の一番偉い人と、だ。

姉曰く、「私くらいの超大物は、あれくらいの相手じゃないと!」だそうだ。


はっきり言って、まったく意味が分からないし面倒くさい。

自分で自分のことを超大物とか言っちゃう人は、大してそんなことないんだぞ。

そんな夢みたいなことは止めようとしたのだけど、姉を見て思いとどまった。


姉は、明らかに恋をしていたから。



相手への手紙ひとつに、真剣に紙から選んでいたり

一文書くごとに奇声をあげながらゴミ箱へ投げ入れたり

使者が来るというだけでお目通りのドレス選びに一週間かけたり

そんな姉を見て、あぁ真剣に相手が好きなのだなぁと感心した。


だから、私はできるだけ姉の力になりたいと思ったのだ。

それにとっとと姉が嫁いでしまえば、私の心労もかなり減るし!



月日は刻一刻と流れ、とうとう明日は相手国の使者が姉を迎えに来る日だ。

明日が今生の別れかと思うと私はほんの少しだけもの悲しく、そして歓喜に胸が震えた。


思えば、私の18年の人生は姉と共にあった。

姉が泣けば、私が呼ばれ何かしろと強要された。

姉が怒れば、何故か私が呼ばれとりあえず謝れと言われた。

両親も兄も弟も家臣も、どうしてか国民も姉にはゲロがでるほど甘かった。

そんな人たちに溜息をつきながら、結局私も姉に甘かった。

自分でも目を覆ってしまうくらいに、ドロドロに甘かった。



だから、最期の日。

バルコニーで月を見ながら泣いてる姉を見て私は思わず声をかけてしまったのだ。

そして、それが私の身代わり劇の始まりであった。








輿入れの朝。

城はいつもよりも揺れていた。


この国の二つ宝の1人である紅薔薇の君が今日、海の向こうの帝国へ嫁いでしまうからだ。

美しい紅薔薇の姫君の名はロゼッタ。輝く黄金の髪と緋色の目をした美少女だ。

そんな少女の輿入れに同乗したいという者が現れ、城はさらに慌ただしさを増す。

その者の名は、リリア。二つ宝のもう1人である、白百合の君であった。


「リリア、貴女までいく必要はないのですよ 」

「ですが、お母様、あのお姉さまが言い出したことなのですよ 」


ゲンナリとした表情で言い返す娘こそ、白百合と呼ばれる双子の妹リリアである。

二つ宝といわれるだけあって、彼女の容姿も美しかった。

ロゼッタが色気を漂わせる美しさならば、リリアは精錬さをもつ美しさ。

少々派手さには欠けるかもしれないが、何者にも穢されることのない美しさがある。

白銀の髪に緋色の目をした彼女もまた、この国の至宝の一つであった。


それでも、やはり宝には難ありなのだ。


「どう考えても、私が動かなければならないでしょう。というか、私以外に誰が適任なのですか? 」

長年の、対ロゼッタ対策として使ってきたのがいけなかった…と母である王妃は何度目かになる反省した。

そう彼女は、重度のシスコンだったのである。


「お姉さまの気が晴れるまでです。それに、7日すれば私は強制的に帰国させられましょう 」

向こうのしきたりにより、花嫁の付き添いは長くても7日間しか滞在できない。

帝国内での婚姻関係が無い者は、7日以上は滞在することができない。

それ以上の滞在は、強制的に国外へ追放されてしまうのだ。


「どんなに長くても、7日が限界 」

そう言ってリリアは、晴れ晴れとした笑みを浮かべて王妃を見つめた。

「ですから、私は最後のお別れをしてきますわ 」



我ながらものすごい演技力だったと、リリアは盛大な溜息をついた。

何が「最後のお別れ(はーと)」だ。どうして自分が海の向こうに行かなければならない。

意味が分からない。否、分かりたくない。あぁ、みんな爆発しろ。


余所から見れば、自分はよほどの姉馬鹿に映ることだろう。

しかし、それは当たり前だ。

周囲がそうして姉を愚かしいほどまでに甘やかしてきたのだ。

それを見て育った自分も、愚かしいほど姉に甘ったるくなってしまう。


しかし、そんな自分も嫌じゃない。それに、どうせ姉はいなくなる。

この国が、城が、そして自分が平和になるために姉にはぜひとも幸せに嫁いでもらわなくてはならない。

そのためにも私は死力を尽くそう、とリリアは心に強く誓った。

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