アガート村防衛戦 3
「なるほど、エリーさんは将来、とっても強い人になりたいのですね」
「うん! 魔物をやっつけられるだけつよいひと!」
ライルの実家の反対側の居住区にある小さな聖堂の墓地で、ライルが墓参りをしている最中、私は聖堂の中で伝道師と八歳児モードで話していた。
「そうなると冒険者様か、軍人様を目指すのですね。エリーさんが頑張ればきっとなれますよ」
「わたし、毎日いっぱい走ってるの! だって元気いっぱい必要でしょ?」
……正直なところ、八歳児モードは非常に疲れる。
素の性格はライルとの会話で分かると思うが、ああいう感じなのだ。
だがそれでも例えば、もし帝国軍の襲撃が間者による手引だったとしたらを警戒して、無害な幼子を演じなければならない。
「そういえば、リーシャさんのところのお子さんも、将来は軍に入らなきゃならない、と言っていましたね」
一瞬、変な声が出そうになった。
どういうことだろうか、彼女はバスティオン辺境伯軍に所属することなど、この時点では思ってもいなかったはずだ。
何事もなければ……そう、何事もなければ彼女はきっと将来はリーシャを支えつつ、この村でマナシルクの生産に関わるかもしれない、そんな人物だ。
私がこの村の視察を決めたから『未来』が変わった?
いやそもそも私の視察はいわゆるお忍びだし、ライルが手紙で帰省を知らせていたとしても、私の同行は不確定要素だ。
まずいまずいまずい、どこかで変なフラグでもいじってしまったかもしれない。
……ひとまず一度冷静になって情報を整理しよう。
彼女が辺境伯軍に所属すること自体は問題ない。ただ、問題なのは――辺境伯軍に『入らなきゃならない』と彼女が自覚していること、その一点だ。
アガートに滞在するという第一段階はクリアしたはずなのに、いきなり不確定要素が発生した。
最も可能性が高いのは――ありえなくはないが、ありえて欲しくない。
私の思惑とは別の目的で動かれると非常に厄介だからだ。
「……リーさん、エリーさん、どうしましたか?」
「う、ううん、なんでもない。その子となかよくなれるといいな」
伝道師への返答は果たしてこれでよかったのだろうか。
ややあってライルが聖堂に顔を出す。墓参りが終わったのだろう。
私は伝道師に礼を言うが、最初の元気一杯の八歳児モードを取り繕えられなかった。
「さて次はリーシャのところに――エリー? なんか様子がおかしいぞ?」
「……ちょっと考え直さなきゃいけないことが――いえ、直接会った方が早いわね」
不確定要素を組み込む為には、直接情報を得るしかない。私は一度大きく深呼吸をして、先行するライルの後をついて行く。
リーシャの家は聖堂からほど近い。あれこれ考えているうちにすぐに到着してしまった。
――さあ、腹をくくれ、私。
「はい? どなたかしら?」
扉の向こうから芯の通った穏やかな声が、ライルのノックの後に続く。
それは私の知識にあるリーシャの声と一致している。
「あー、俺だ。昨日の夕方に帰ってきたんだ。実家、掃除してくれただろ? その礼を言いに来たんだ」
「ちょっと待ってくれる? 今、行くわ」
気安さを感じさせるやりとりからややあって扉が開く。
桃色の髪を肩口で結わえた、夏場だというのにショールを肩にかけた美女が姿を見せた。
――リーシャだ。リーシャ・ルミナ。
声も姿も、私の知識と違わない。ただ、今この瞬間を生きているということ以外は。
「あら、可愛らしいお嬢さんを連れて。ライル、全然似ていないけど、あなたの子ども?」
「バカ言え俺が結婚なんかできるわけないだろ。親戚の子どもで、マナシルクが見てみたいって言うから連れてきたんだ」
「うちのアリアと同じぐらいかしら? でもハーフエルフさ――ちょっとアリア、お客さんが来ているんだから部屋に――!」
家の奥から猛ダッシュで誰かが、リーシャとライルを避けながら私に突進してきた。
――痛い!?
「なんで――」
尻もちをつく私に桃色の髪の、私と同じぐらいの幼女が狼狽えたような声音で。
「なんで!! エリーたんがここにいるの!?」
――そう叫んだ。
このオタク丸出しな呼称、間違いない。
――アリア・ルミナは私と同じ『転生者』だ。




