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アガート村防衛戦 2

「そこの者、止ま――おおなんだお前、ライルじゃないか!!」

村唯一の入口に立っていた壮年の男が、ライルを見るなり破顔する。

どうやら昔馴染みの自警団の人間のようだ。

「まとまった休暇が取れたもんでね、墓参りついでに領都の親戚の娘が本物のマナシルクを見たいっていうから連れてきたんだ」

「はじめまして、エリーです!! おじちゃん、ライルちゃんのおしりあい?」

用意しておいた設定に則って、精一杯の笑みで八歳児らしく挨拶する。

「そうだよーおじちゃんはハッサンって言うんだ。昔からここで悪い人とか危ない動物が入って来ないお仕事してるんだよ」

ハッサンと名乗った壮年の男は私のキュートな笑顔にデレデレした態度を示した。この路線なら警戒心を抱かれることは無いだろう。

……ライルが笑いを噛み殺したような顔をしているのが癪に障るが。

「それにしてもライル、お前の親戚にエルフの嫁さんを貰ったヤツいたんだな。ありゃ将来相当な別嬪さんになるだろうよ」

お転婆だけどね、と肩を竦めるライル。そちらは否定できない。

そう、私はいわゆるハーフエルフという種族になる。

お母様――シルヴァハは長命なことと、そして絶世の美貌を持つことでよく知られている種族のエルフ、その中のニヴという氏族の出身だ。

なので私はお母様譲りの真珠色の髪と、小ぶりの葉っぱのような耳を受け継いでいる。

ちなみにお父様とお母様が並ぶと、月の妖精とその従者の熊、といったような感じだ。いわゆる美女と野獣。

さて、ライルのお陰で顔パスで村の中に入れた。

帝国軍の破壊工作を受け、廃墟となった姿でしか知らない私が初めて見たアガートは――村というより小さな町だった。

土が剥き出しの道ではなく石畳で舗装され、建物もいい意味での古さを感じる。

防具の素材としてだけではなく、その着心地の良さから王都で高値で取引されるマナシルクの唯一の産地だから、税を収めても村の中心に花壇を整備できるだけの精神的な余裕もある。

そして思いの外広い。これは私の知識との食い違いがある。

単に八歳児の視野と、あとは知識にある縮尺とディティールの省略が理由だろう。

ライルの説明によると湖を北として空から見ると、北東部がマナシルクの工場、北西部がマナワームの飼育区画、それ以外が雑貨屋や食堂などを含む居住区となっているそうだ。

そしてライルの実家は南西に十軒ほどあるうちのひとつ。ここがアガート滞在中の私たちの拠点だ。

「……まあお嬢をおもてなしするには何も無いところだけどな」

そう言ってライルが施錠されていたドアを開いた。

長年放置していたわりには、入ってすぐのダイニングのテーブルに埃ひとつない。

「リーシャ、身体弱いのにここまでしなくてもなぁ……」

ライルが頭を掻く。

リーシャ――私の目的の重要人物のうちのひとりだ。

ライルの幼馴染で、自警団員だった夫がいた。

彼女の夫は数年前、周囲の森に突如出没するようになった魔物の狩りの際に、魔物と相討ちとなる形で亡くなっている。

それ以降女手ひとつで、私と同い年の娘を育てている。

ただ病弱なため、困窮とまでは行かなくとも生活は決して楽ではない。

以上、私が知るリーシャという女性の情報だ。

「今日はもう日が沈むし、明日にでもお礼に伺わないとね。その前に貴方のご両親のお墓参りかしら?」

「……ホントにエリー、八歳にしてはしっかりしすぎだろ……」

ライルの呆れた声に私は笑みで応える。

それよりも私は、もうひとりの――いや、最重要人物に早く会いたくて内心では浮足立っていた。

ここから、始まる。

――だから、失敗できない。

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