アガート村防衛戦 1
「――お嬢、本当にそんなことが起こるんですかね?」
青年が、いまいち信用しきれていないのが分かる声音で尋ねてくる。
「私たちが行くことによって変わる可能性もあるけれども――ほぼ確実かしら」
それとお嬢は辞めてちょうだい敬語も不要、と私は付け加える。
辺境伯軍の十人隊長のライルと、領都の幼い親戚のエリー。そういう『設定』にしているから、ボロが出ないようにするために現段階で徹底しておかなければ。
「俺もおじょ……エリーの『未来視』の凄さは実感しているけど、攻めるには結構不向きだぞ?」
そう、私たちが向かっているアガートという村は入口は一箇所で、そびえ立つ岩山と巨大な湖を背後に構え、そして森の奥深くにある自然の城塞。
いくら帝国軍が精鋭揃いだとしても、普通なら難しいだろう。
「自警団を上手いこと引き剥がしてしまえば後は数の暴力、ね」
「とは言ってもうちの故郷の連中、退役軍人とか引退した銀等級の冒険者もいるから、そう簡単には遅れは取らないと思うんだがなぁ……」
本来の戦力はその通りだ。それでも数の暴力には勝てない。持ちこたえられても結局は押し切られる。
「だから――私とライルが行くんじゃない。たかが辺境伯軍の十人隊長と、八歳の幼子よ?」
いやそりゃまあ確かに、とライルは頭をかく。
実際にはライルは徒手空拳での戦闘スタイルを得意とする、辺境伯軍でも五指に入る実力の持ち主。
そしてアガート生まれのため休暇で帰省した、という体裁で問題なく村に入れる。
「まだ八歳なのにエリーに手も足も出ないでボコられたからなぁ……アレ、勝てるのうちのボスだけだろ」
ボス――私のお父様、バルドゥール・シュタールヘルム・バスティオン。
鉄壁の防御と、一撃の破壊力が凄まじい戦鎚を振るう、『動く城塞』と呼ばれる英雄だ。
私、エルファリア・ニヴ・バスティオンは帝国と国境を接する辺境伯、バスティオン家の長女。
ゆえに英才教育を受けたから、戦闘に関する才能がある――わけではない。後々語るつもりだが、ある理由で私はめちゃくちゃ強いのだ。
それとライルが言うことには誤りがある。恐らく現時点でも私はお父様の鉄壁の防御を余裕で貫ける。
ただお父様は娘である私に激甘なので……娘と訓練とはいえ手を出したくはないらしい。
そういうわけで、私がこの夏にアガート村の視察に行きたい、というおねだりも条件付きではあったがすんなりと承認してくれた。
その条件というのが、長年休暇を取っていなかったライルを同行させる、ということ。
元々私はライルに『ある理由』から同行してもらうつもりだったので渡りに船だったのだが。
つまり結果的に辺境伯軍のトップクラスの実力者二名が、アガート村に一時的に戦力として加入する。
ところでなぜ私がアガートという森深い村の防衛に固執するのかというと。
「しかし帝国も唯一のマナシルクの産地だからって、破壊工作なんてヤキが回ったのかね?」
「当然でしょう? 防護系の魔法を付与できる最高の素材だし、それに領の特産品よ?」
もちろんそれだけが理由ではない。これからアガートで起こる悲劇をひとつ、回避したいからだ。
恐らく私たちが本来の肩書であれば、村が襲撃される時期がずれ込む。
辺境伯軍の下っ端とその親戚の幼子なら、イレギュラーとしては些末だ。そのための偽装。
それ以外にも辺境伯軍を常駐させる、という見解もありそうだが、それはそれで未来が重要なところで変わってまうかもしれないので却下。
「ともあれ、難しく考える必要はないわ。私たちが村に着いて三日後の深夜、野盗に扮した帝国軍の工作部隊を壊滅させる――以上、それだけのシンプルな作戦」
「へいへい、せめて敵さんの数が少ないことを祈りますか」




