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生徒会の王女様は距離感がバグってる  作者: レイチェル


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9/13

ナイトの救済策

「ほら、これでも飲んでとりあえず落ち着け」


「……ありがとうございます」



 真冬の手を握ったまま足早にマンションの敷地内に入った春希は、そのまま自宅の中へと真冬を招き入れる。そして、テーブルに真冬を座らせると、温かいコーヒーを淹れて差し出した。

 真冬がコーヒーカップを両手で包み込み、ゆっくりと口にする。コーヒーのほろ苦さが口の中に広がり、真冬はようやく一息つくことが出来ていた。

 その間、春希はリビングから繋がるベランダに出て、周囲の様子を見渡していた。8階からではまともに夜の様子を確認することは難しいが、少なくとも春希の視界の中には怪しい人影は見当たらなかった。しかし、真冬にストーカー疑惑が発覚したいたことを受けて、春希は頭を悩ませていた。



「とりあえず今日のところは大丈夫だと思うが……その様子だと、このマンションまでつけられていることもあったのか?」


「はい……これまでに何回かはありました。マンションの入口がオートロックのため、そこから中に入って来ることはありませんでした」


「そうか……そいつの身体的特徴は分かるか?」


「詳しくは見ていないのですが……身長は福島さんと同じくらいだったと思います。帽子とマスクをしていたので顔はよく見えませんでしたが、おそらく20〜30代の男性だと思います」


「なるほど。本当なら直接捕まえて警察に差し出すところだが、最近のストーカーも物騒だからな。下手すると殺人事件とかに発展する可能性もあるから、早めに警察に相談するのが良いかもな」


「警察にはもう相談したあるんです。てすが、周辺の警備を行うという返事だけだったので、正直そこまで期待は出来ないと思います」


「実害が出ていないから、具体的な行動を取ることが出来ないってわけか。被害が出てからじゃ遅いんだけどな……」


「そう、ですね……」


「ああ、そういう意味じゃないんだ。余計に不安にさせてごめんな」


「いえ……大丈夫です」



 テーブルの向かい側に座っていた真冬の表情は暗く、とても学園で王女様と言われている女の子には見えないほどに小さくなっていた。その不安と恐怖心から、真冬の手の中に包まれていたコーヒーカップが小刻みに揺れていた。

 真冬も春希と同じく、このマンションで1人暮らしをしている。そのため、頼りになる家族もいなければ、そこまで親身に相談出来る友人もいなかった。真冬は、自分がマンションで1人暮らしをしていることを、春希以外の誰にも話していなかったのである。



「……すみません、福島さんに関係の無い話なのに、巻き込んでしまって」


「いや、それは別に気にしなくていい。もしも宮城がこのまま被害に遭ったら、そっちの方が気分が悪いからな。問題は、どうやって対策を立てるかだが……」


「いえ、福島さんがそこまで心配しなくても大丈夫です。防犯ブザーもありますし、なるべく人通りの多い道を帰ったり、暗くならないうちに帰るようにしますから」


「でも、それだと根本的な解決にはならないだろ? それに……そんな顔されたら、放っておくわけにいかないだろ」


「えっ……?」



 春希に指摘されて、真冬は初めて自分が不安に満ちた表情をしてしまっていることに気付く。人前ではそのような表情をあまり見せない真冬であったが、なぜか春希の前では弱気な自分を見せてしまっていた。



「ご、ごめんなさい。私、福島さんに迷惑をかけるつもりでは」


「ここまで知ってしまったんだから、もうどれだけ迷惑かけても同じだろ。そんなに謝ってばっかりなのも良くないぞ」


「でも……」


「今はストーカー問題をどうにかするのが先だ。謝るのはそれからでも良い」


「福島さん……ありがとうございます」



 真っ直ぐな春希の視線を受けて、真冬はその好意に甘えることにした。正直なところ、真冬には春希以外に頼れる人物がいなかったため、1人でストーカーに立ち向かわなくてはならないところだったのだ。

 面倒なことに関わることが嫌いな春希であったが、真冬のことを助けることを自然と選んでいた。どうしてそのような考えに至ったのかは、春希にもよく分からない。おそらくそれは、ただのマンションの隣人だからという理由だけではなかったのだろう。



「オレがバイトじゃない日は、オレが宮城の少し後ろを帰るとかすれば大丈夫だと思う。問題は、今日みたいにオレがバイトの日の場合だな……どうしてもこれくらいの時間になるから、そのときはさっき宮城が言ったように、明るい内にさっさと帰るのが得策か?」


「でも、生徒会の仕事で残らなくてはいけない日もありますし……11月だと、暗くなるのも早いですからね」


「そうなんだよな……まさか生徒会の仕事をサボって帰るわけにもいかないしな」



 前髪を掻き分けながら、春希は持てる頭脳を最大限に発揮して考えを巡らせていく。

 11月の太陽は、虚しくも夕方5時には山陰へ沈んでしまう。暗闇を好むストーカーからすれば、好条件になっていくばかりの季節であった。バイトも生活費を稼ぐために、ある程度タイトに入れていたこともあり、春希は勉強とバイト以外で気ままに過ごしている時間はほとんどなかったのだ。

 そんな中、春希はとある人物の顔が思い浮かぶ。そしてそれは、真冬にとって救世主となり得る存在でもあり、逆に自分たちの関係性も明かさなくてはならないというリスクも持ち合わせていた。



「宮城……1人だけ頼りになるやつがいるかもしれない」


「本当ですか? その方はどちらに?」


「同じ生徒会で、さっきも一緒にいた青森渚だ」


「えっ? あ、青森さんが?」



 意外な人物の名前に、真冬は首を傾げる。しかし、春希にとってはこれが最適解であった。



「ああ。渚はオレと違って、そこまでキツキツにバイトを入れていない。だから、オレと違って時間的に余裕はあるはずだ。そして、渚は頼りになるやつだから、きっと宮城のことを助けてくれるはずだ。今まで渚と関わってきたが、あいつは口も固いし信用出来る。間違っても、オレと宮城が同じマンションに住んでいると周りに言いふらしたりはしないはずだ」


「で、でも、青森さんも女の子ですよ? もしもストーカーに襲われたりでもしたら……」


「それについては問題ない。渚は柔道黒帯らしいから、ストーカーがそんなことすれば逆に投げ飛ばされる」


「そんな特技が……でも、私はほとんど青森さんと話したことがありませんし、私に協力してもらえるということは、少なくとも青森さんも危険な目に遭う可能性があるということでは?」


「まあ、そこは渚に相談してみたからだな……あとは、実際にストーキングされているところを撮影でもして警察に突き出すのが1番早いだろうな。証拠があれば、警察も動いてくれるだろう。ただ、少なくとも宮城が1人暮らしをしているという事実だけは渚に伝えないといけない。それを、宮城が良いと思うかどうかだ」


「それは……状況が状況ですし、青森さんが信頼出来る人だというのも分かります。他に頼れる人もいませんし、もし青森さんが良ければですが……」


「分かった。渚には連絡しておくから、明日にでも話が出来ると思う。明日は、オレも渚もバイトを入れてないからな」



 春希はスマートフォンを手に取ると、メッセージアプリで渚に連絡を取る。渚からの返信はすぐに来たのか、春希は素早い手付きでメッセージを飛ばしていた。

 リビングの窓際に立ってメッセージを打つ春希の背中を、真冬はコーヒーを飲みながら見つめていた。ただの隣人とは言え、ここまで助けてくれるとは、真冬にとって予想外であった。

 春希は、学園では生徒会の夏や綾乃以外と話すことはしない。渚も別のクラスであり、寡黙な春希に近付いてくる物もいなかった。その意味でも、真冬は春希に対する認識を改めていた。

 それでも、真冬の不安が全て取り除かれた訳ではない。ストーカーが何をしてくるか分からない以上、自分の身が危険に晒さられていることに変わりはなかった。そして、自分に協力してくれる春希や渚が被害に遭うようなことは、何があっても避けたかった。



「……よし。渚には連絡がついた。明日の放課後、3人で会って話をする。それで良いか?」


「は、はい。本当にありがとうございます」


「気にするな。何事もなく終われば、それで良い。もう10時か……今日の夕飯は何にするかな」


「あ、あの……福島さん」


「ん? どうした? 夕飯がまだなら一緒に食べるか? 簡単な物しか作れないが」


「あ、あのですね……もう1つ、お願いしても言いですか?」


「どうかしたのか? オレで解決出来る問題なら良いぞ」



 渚との連絡を終えた春希がテーブルに戻り、本日の夕飯の献立を頭の中で考える。そんな春希に、真冬は口に出しづらそうにしていたのか、俯きながら小さな声を搾り出す。そして、首を傾げていた春希に、真冬はおそるおそるといった様子で問いかけた。



「今日……ここに泊まっていっても良いですか?」


「……え?」



 春希の右手からスマートフォンが滑り落ち、テーブルからカーペットの上に落ちていった。

 

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