王女様の危機
「宮城っ!」
「っ!? ふ、福島さん? どうして……」
春希がコンビニからマンションまでの道のりを駆け足で進んでいくと、数分程で見慣れた背中が見えてくる。息を切らしながら真冬に声をかけると、真冬は驚いたように振り返った。
その表情に、春希はやはり何かがおかしいことに気がつく。確かにいきなり声をかけられて驚くのは分かるが、それにしても真冬の驚き様は、声をかけた春希の方が驚くほどであった。
「はぁっ、はぁっ……ふう。いきなり驚かせてごめんな。そんなに驚かれるとは思ってなかったから」
「い、いえ……あの、どうして福島さんがここに?」
「あの状況で、何もないと思うのが不自然だろ? 山形や秋田にオレのバイト先を聞いたくらいなんだから、オレに用があると思わない方が不自然だ」
「……すみません。福島さんのプライバシーを勝手に聞き出すようなことをして」
「いや、それは別に構わない。宮城がそれほどのことをするってことは、何かあったんだろ?」
「……福島さん」
「っ……!? み、宮城っ!?」
申し訳なさそうに謝罪した宮城を、福島は咎めることはしなかった。それだけ、宮城に何か理由があったのだろうと、福島は考えていたからである。
立ち止まった宮城に、福島は素直な疑問を向けていく。すると、宮城が取った行動は福島の想像を遥かに超えたものであった。
「ごめんなさい、福島さん……助けてください」
「なっ……ど、どうしたんだ宮城? 大丈夫か?」
真冬は春希に抱き付くように、春希の背中に両手を回して抱きしめる。何が起こっているのか理解出来ていない春希は、反射的に真冬のことを抱きしめていた。
11月の夜はかなり冷え込んでいる。しかし、自分の腕の中で震えていた真冬は、決して寒いから震えていたのではない。今にも泣き出しそうな声色に、春希は戸惑いばかりが募っていく。このような真冬を見るのは、もちろん初めてのことであった。
街外れの夜道は、春希と真冬以外に通る人影は見当たらない。普段であれば学校関係者に見られることを警戒していた春希であったが、さすがにこの時間のこの場所では可能性が低いと思い、真冬が落ち着きを取り戻すまで待つことにした。
「……私、最近誰かに見張られているんです。ずっと私の後ろを歩いていて、とても怖いんです……」
「っ……! それはストーカーか?」
「分かりません……ただ、おそらくそうだとは思います。今日もさっきまでそうでしたから」
「さっきもだって!? じゃあ、何でさっきコンビニで言わなかったんだ! お前、下手したらオレが来なかったらストーカーに襲われてたかもしれないんだぞ!?」
「で、でも……アルバイト中の福島さんに迷惑をかかるわけにいきませんでしたし、青森さんもいましたから……」
「そんなこと気にしてる場合か!? 今も近くにいるかもしれないってことだろ? そのストーカーが!」
「は、はい……」
春希は辺りを見渡して警戒するが、幸いにもそのような気配は感じられなかった。真冬がコンビニに入った段階で諦めたのか、それともただ見失っただけなのかは不明である。
僅かな街灯のみが照らしている路地は、車の往来すらほとんどない。この辺りは細い道が多く、2人が住んでいるマンションの近くに大通りたるものは存在していなかった。
真冬を抱きしめながら、春希は頭の中で対応策を考えていた。そして、真冬の手を引いて早足で歩き出す。
「とりあえず帰ろう。いつまでもこの辺りにいると、その変なやつに見つかる可能性がある」
「あ、あのっ、福島さん……」
「どうした?」
「その……ありがとうございます」
「気にする必要なんかない。良いか、絶対にオレから離れるなよ」
「は、はい」
真冬の手をしっかりと握りながら、春希は真冬の歩調を考えつつ、可能な限りで足早にマンションへと向かう。
真冬が感じていた気配が本当にストーカーである確証は無い。しかし、春希から見た真冬の勘は、外れているように見えなかった。
春希に手を握られていた真冬は、春希の隣を歩きつつ、その横顔に視線を送る。その顔はいつになく真剣で、真冬が見たことのない春希の表情であった。




