王女様は有名人
「王女様、おはよう! 今日も可愛いね!」
「おはようございます。ありがとうございます」
「王女様、今度カラオケ行かない?」
「あ、私そういうのはあまり……」
「王女様、今度宿題教えてください!」
「はい、私で良ければいつでも」
入学してから学年トップの成績を維持している宮城の周りには、いつも多くの友人がいる。そのほとんどが女友達であり、容姿端麗で礼儀作法も弁えている宮城を手に入れようと、数多の男たちが遠くから牽制し合っていた。
その様子を、福島はクラスの窓際の席から眺めていた。周りにいた男子グループも宮城の話で盛り上がっているため、福島は誰にも聞こえないように小さくため息をつく。これで自分が宮城と一夜を共にしたことが露呈でもしたら、大問題になること間違いなしであった。
福島は、この学園に授業料免除の推薦入試枠を使って入学している。この制度は余程の成績を残している者でなければ認められず、入学後も高水準の成績を納めることを求められている。成績不振イコール=授業料免除の剥奪になるのだ。幸いにして福島は学年2位をキープし続けているため、そのような話とは無縁である。しかし、その存在感の無さと愛嬌の無さ、加えて宮城真冬という絶対的な不動のトップがいる影響で、福島が学年2位をキープしていることを知っている者はほとんどいなかった。
「今日も王女様はモテモテだねぇ。あの男子たちの腹の探り合いをしている目、抜け駆けしたらヤバそうだな」
「そうだな。王女様も大変だな」
「お前はそういったことに興味無いのか?」
「無い。常に周りから見られて生活するのはご免だ」
「かぁぁぁっ! どうしてお前はいつもドライなのかねぇ! お前、顔は悪くないんだから、ちょっとでも愛嬌良くすればモテると思うんだけどなぁ? 綾乃もそう思うだろ?」
「まあ、春希はそういうのに興味無いんでしょ? ましてや、相手はあの王女様だよ? 春希なんかが釣り合うわけないって!」
「何かお前らに言われるとムカつくな」
休み時間に友人たちに囲まれている宮城を見ていた福島は、生徒会長の山形と副会長の秋田に絡まれていた。この2人も同じクラスであり、福島が話す数少ないクラスメイトであった。もっとも、そのほとんどが山形と秋田が勝手に話しているだけである。
「でも、春希もそろそろ彼女作ったら? もう高校2年の秋だよ? ハロウィンも終わって、うかうかしてるとクリスマスだよ!? 春希は今年もクリぼっちで過ごしちゃうの!?」
「まるで人を憐れむような目で見るのは止めろ。オレは別にそういうことに興味は無いから良いんだよ。しかも、クリスマスはバイトの人数が少ないから、むしろそっちに行かないとダメなんだよ」
「は、春希の青春がバイトで消えていっちまう……」
「だから、人を憐れむ目で見るな。オレはこれで良いんだよ」
あれだけ多くの友人に囲まれている宮城を見て、福島は息苦しさすら感じてしまう。それでいて数多の男たちが狙っているとなれば、宮城に息をつく暇があるのかと思ってしまう。生徒会で一緒に仕事をしてはいるものの、まだ福島に疑いの目が来ていないのは幸いであった。おそらく、普段からこのような態度を取っていたため、クラスメイトからすれば完全に蚊帳の外という立場だったのだろう。
「お前らこそ、うかうかしてると次の中間で痛い目を見るぞ? 生徒会が赤点なんか取ったら、冬休みは補講でクリスマスどころじゃないという話だからな」
「なっ、何だって!? オレと綾乃のクリスマスが補習で潰れるのか!?」
「えっ、そんなの嫌よ!? 夏と一緒にいられない冬休みなんて、意味無いわよ!」
「オレに文句を言うな。普段から勉強してないのが悪いんだ」
「春希は推薦入学で優秀だから、俺の気持ちが分からんのだ! 勉強とバイトばっかりして、生徒会に王女様もいるのに、せっかくの青春を潰そうとしているんだぞ!?」
「だから、オレは興味ないっての」
抱き合いながら補習を恐れていた山形と秋田の2人に、福島は深々とため息をつく。
昼休みの教室は賑やかな雰囲気に包まれており、宮城も友人たちに囲まれて穏やかな微笑みを浮かべている。その裏で、先日のような一面を見せていた宮城に、福島は隣人として知ってしまった秘密を、このまま誰にも話さないよう、改めて心に決めた。




