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生徒会の王女様は距離感がバグってる  作者: レイチェル


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3/13

王女様との夕食会

「ほら。あんまり美味くはないけど、腹の足しにはなるだろ」


「あ、ありがとうございます……本当にごめんなさい、福島さん」


「別に構わないさ。1人分も2人分も、作るのに変わりはないから」



 2人用の小さなテーブルの上に、福島が作ったチャーハンと野菜炒めが並べられる。時間をかけずに手軽に出来る料理として、福島が普段から良く作っているものであった。

 夕飯を食べていなかった宮城は、素直に福島が作った料理を口に運んでいく。すると、一口チャーハンを食べると、その頬が少しだけ綻んだ。



「……美味しいです」


「それは良かった。オレ好みの味付けだから、宮城には合わないと思っていたけど、口に合うようで良かったよ」


「そんなことないです。こんなに美味しいチャーハンは食べたことがありません」


「それは買い被りすぎだな。これくらいなら、誰でも作れるさ」



 テーブルに向かい合ったまま、福島と宮城は不思議な夕飯を囲んでいる。特に会話が弾む訳ではなかったが、宮城は不思議とその沈黙が重いと感じることはなかった。それはきっと、自分自身と似たような雰囲気を、福島が持っていたからなのかもしれなかった。

 当然のことながら、この部屋には福島しか住んでいる者はいない。帰宅して来る家族がいないというのも、この部屋のインテリアの簡素さを思えば、仮に隣人でなくとも容易に想像はついた。



「あの……福島さんはここに1人で暮らしているんですよね?」


「ああ、そうだよ。オレの思い違いで無ければ、宮城と同じだと思うぞ」


「……どうして1人暮らしをされてるんですか?」


「…………それを聞いても面白くないぞ」



 それは、ただ単に宮城の好奇心から出た質問であった。どこか自分と同じ雰囲気を持っていたからこそ、宮城は福島に少なからず興味を持っていた。

 今まで他人に踏み込まれることがなかった福島は、宮城がそのような質問をしてきたことに対して、少なからず驚いていた。しかし、すぐに自分を守るための壁を作り、その内側に入られないようにしていく。



「なんとなく……気になったからという理由だけではいけませんか? 隣の部屋に住んでいる人のことを、少し知っておいても損は無いと思います」


「いきなり重い話をされても困るだろ? 王女様に話すようなことじゃないよ」


「……その呼び方は止めてくださいと言ったはずです」


「…………オレの両親は、オレが幼い頃に事故で死んでいる」


「え……?」



 つい憎まれ口を叩いてしまったことに対してのお詫びなのか、福島は誰にも話したことのない自身の境遇を話し始めた。

 後になって、福島はなぜ宮城にそのようなことを話したのかを疑問に思うようになる。ただ、宮城が真っ直ぐな視線を向けていたため、逸らすことが出来なかったということであった。



「両親の他に頼れる人がいなかったオレは、里親制度を使って引き取られることになった。新しい親はオレに対して良くしてくれたし、感謝してもしきれない。そんな両親に負担を掛けさせないよう、授業料免除の制度があるこの学園への進学を選んだんだ。ここは両親が住んでいた街からだいぶ離れていたから、通うことは現実的じゃない。だから、両親に必要最低限の仕送りをしてもらって、ここで1人暮らしをしているというわけだ。つまらない話だろ?」


「……つまらなくなんかないです。話してくれて、ありがとうございます」


「こんなこと話してお礼を言われるのも珍しいな。宮城こそ、どうしてここで1人暮らしをしている? この機会だから、オレも隣人のことを少しは知っておくべきだと思うからな」



 等価交換というわけではないが、福島は宮城にも同様の質問をする。少なくとも、自分より重苦しい話にはならないであろうという、福島の浅はかな考えであった。



「……私の両親は海外を拠点としています。今までは実家で大学生の姉と2人で生活していましたが、その姉も今は両親から経営のノウハウを学ぶために、海外にいます。私が中学を卒業するのを待っていた様子だったので、私が実家に1人で残る必要性も無くなりました。学費や居住地は好きなようにして良いということだったので、私は進学や就職に有利なこの学園を選びました」


「なるほど。お前は姉と一緒に海外に行くつもりはなかったのか? 別にあっちにも高校はあるだろ」


「両親は、姉の才能をとても買っていました。頭も良く、機敏な行動力もあります。そんな姉は私の目標でしたが、残念ながら私にそのような才能はありませんでした。両親は直接言うことはありませんでしたが、私に姉のような期待はしていなかったのでしょう。幼い頃から、両親は姉のことばかりでしたから」


「……そうか。変なこと話させて悪かったな。嫌な気分になっただろ」



 自分の想像以上の返事が来たことに対して、福島は少なからず後悔していた。これならば、今まで通り何の知らない隣人同士でいた方が良かったのかもしれない。何か踏み込んではいけなかったところに足を踏み入れてしまったような気がして、福島は宮城に対して頭を下げた。

 それは、宮城の心の内側に容易に踏み込んでしまったことに対する謝罪であった。まさか、学園の王女様と呼ばれている者が、そのような境遇にいたとは、おそらく誰も知らないことであろう。



「……いえ、福島さんは話したくないであろうことを話してくれました。ならば、私が話すのも当たり前のことです。それに、福島さんは軽々と周りに言いふらすようなことはしない人だと思いますから」


「まあ、そんなことを話すような友達もいないからな。みんなから慕われてる宮城と違ってさ」


「みんながみんな、私のことを良く思っている訳ではないですよ? 私のことを嫌っている人もいるはずです」


「全人から好かれるような人なんていないさ。宮城が疎まれるとすれば、宮城を狙っている男子たちの中に自分の好きなやつがいる女子くらいからだろ。結構いそうな気もするか?」


「福島さんは、その男子たちの中に含まれていないんですか?」


「いや……それは無いだろ。あったら、もうとっくに何かしてると思わないか?」


「それもそうですね。福島さん、私に全然興味無さそうですから」



 そのとき初めて、福島は宮城が笑っているところを見た。それは、いつも学校で見せている王女様としての微笑みではなく、自分の意思で笑っているような、そんな笑みであった。

 そして、少なからずその笑顔が可愛いな思ってしまった福島であったが、もちろんそれを口に出すようなことはしなかった。



「ご馳走様でした。洗い物、私がお手伝いします」


「いや、気にするな。宮城は客なんだから、大人しく風呂でも入ってろ。今沸かすから」


「えっ……? でも私着替えも何も……」


「着替えはオレのパジャマしかないけど我慢しろ。洗ってあるから心配するな。乾燥機付きの洗濯機だから、風呂に入ってる間に回しておけば、すぐに乾くだろ」


「あの……どうしてそこまでしてくれるんですか?」


「このまま寒空の下で凍えられても困るからだよ。他意は無いから心配するな」



 食器をキッチンに運んだ福島は、そのまま浴室へと向かってボタンを押す。すると、程なくして浴槽にお湯が溜まっていく音が流れ始めた。



「あと、今日は仕方ないからオレのベッドで我慢してくれ。オレはこっちのソファーで寝るから」


「で、でも、それだと福島さんが」


「王女様をソファーなんかで寝かせたら、他のやつらにバレたときに何を言われるか分からないからな。別に、見返りなんか求めてないから心配するな」


「……襲ったりしませんか?」


「はは。そんなこと言う余裕があるなら大丈夫だな。ほら、あっという間に風呂沸くぞ?」


「わ、分かってます。福島さん、本当に私に興味無いんですか?」


「だから、興味があったらとっくの昔に襲ってるって」



 キッチンで洗い物をしながら、福島は苦笑いを浮かべていた。

 学園で数多の男たちに言い寄られている宮城からすれば、福島のような男は珍しい存在であった。全く相手にされないというのも、宮城にとっては少なからず不満があったり無かったりであり、難しい女心であった。

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