有波
箱根スカイラインを北上していると霧がだんだんと濃くなってきた。今日は霧が出る予報だっただろうか。こんな時に運転とはほんとに僕はツイてない。普段なら飛ばしているところだったけど、この霧ばっかりはどうしようもない。気持ち速度を落として運転するとしよう。
「神奈川県箱根町に住む小学2年生の女子児童が行方不明になってから2週間が過ぎました。警察にはこれまで複数の情報が―――」
ラジオを切る。最近は暗いニュースが多くて参る。暗い。…影?
急ブレーキを踏む。勢いで体が前につんのめりそうになるがシートベルトに支えられる。シートベルトに触れている部分に力が集中して肉に食い込む。ほんとに痛いんだ、これが。一旦ハザードを焚いて前を見る。少し遠くに人らしき影が見える。こんなところで何を、文句を言いに行こう。
「ん?どこいった。」
車を降りる一瞬で見失ってしまった。え、落ちた?まさかね。再び前に向き直ると車のハザードが見える。どうやら停まっているみたいだ。近づくと初老の男が車の前で屈んでいた。
「あんた、大丈夫?」
初老の男は驚かされた猫みたいにビクついてこっちを見てきた。
「あぁ、えっと。なにか、車にぶつかったみたいで。」
「ぶつかった?人に?」
さっきの人影はこのおっさんに轢かれた人か。
「あーと、いえいえ、きっと動物なんですよ。…ほら血もないし、なによりモノがないじゃないですか。ね?」
「はぁ?」
「と、とにかく失礼します。」
初老の男はそそくさと車に戻ると勢いよく発進していった。
「なんなんだよ、あのおっさん。」
クラクションが響く。いつのまにか後続車が来ていたらしい。運転手に身振り手振りで謝りながら車に戻り、走らせる。御殿場に帰ろう。