第二話 陽キャ襲来
ダンジョンに隣接した場所に建てられた小規模なビル。小綺麗に整えられた一室。
片手剣や槍、斧など冒険者の武装がズラリと並んだここは武装貸出室。沢山の駆け出し冒険者はここで武器を借りてダンジョンに挑む。
そんな鉄臭さを感じる部屋で僕は過去最大の危機に瀕している。
「はじめましてっ!私、桜井あかねっていいます。あの、よかったら一緒にダンジョンに行きませんか?」
「へぁっ!?」
よ、陽キャだぁ!
───────
数時間前
初めてのダンジョンでゴブリンと戦った次の日、僕はまたダンジョンに向かう事にする。
ダンジョンでの魔石回収の実績が続けばより高い階級の冒険者になれる。そのためにもできるだけダンジョンに潜りたい。
「高校の入学式はまだ先だし…春休みの間はどんどんダンジョンに潜ろう」
バスに揺られること30分程度、家から一番近い「青峰第二ダンジョン」に到着する。
ダンジョンの入り口はドーム状の建物で完全に覆われている。ダンジョンに入るには隣のビルで許可証をもらう必要があるのでビルへ入る。ビルの中は比較的空いていて役所独特の雰囲気が漂っていた。僕は入ってすぐにある受付へ冒険者証を提示する。
「ダンジョンへ入る許可と武器の貸し出しをお願いします」
「照合いたします……確認できました。小鳥遊結城さん4級冒険者ですね」
受付の女性は僕の冒険者証を受け取り機械を操作する。
ちなみに4級というのは冒険者の実力を表す指標だ。僕のような新人はみんな4級からスタートする。1級冒険者が一番上だ。
「貸し出す武装は前回と同じものでよろしいでしょうか?」
「同じでお願いします」
「承知しました。片手剣とガントレット型のマジックデバイスですね」
マジックデバイスは魔法を行使する機械のことだ。行使できる魔法はこの機械のメモリに記録された魔法だけで僕は「マジックボルト」を含めた3つの魔法を記録している。
受付での手続きが終わるとドッグタグを渡されるので首にかけて武装貸出室へ向かう。
武装貸出室はダンジョン用の武装が種類ごとに綺麗に整頓されて並んでいる。
えっと、昨日使ったやつは……あった
片手剣の武装が置かれたエリアから1本の剣を取り出す。僕が使っているのは片刃の剣で、刀身が少し短いから振りやすいのが特徴だ。
次にマジックデバイスを取ろうとしたところで武装貸出室のドアが開く。入ってきたのは同い年くらいの女の子だった。目を引く桜色の長髪をリボンで片側に結んだ女の子は弓が置かれたエリアに向かった。
弓使いかぁ…弓は扱いが難しいって聞いたけど経験者かな?
そう考えながらぼーっと女の子が手に取った弓を見ていたからか、ふと目が合ってしまう。
「………」
「………」
あわわわわ…
慌てて視線をそらす。場の気まずさに耐えられなくなった僕は目の前にあるガントレット型のマジックデバイスを取ってダンジョンゲートの方へ向かおうとする。
ここで慌てる様ではボッチとしては二流。目が合っていたのは一瞬、一流のボッチは何事もないかのように振る舞えば離脱可能と知っている!
「あのぉ〜」
こ、声をかけてきた!?こんなの僕のデータにはないぞ…!
「はじめましてっ!私、桜井あかねっていいます。あの、よかったら一緒にダンジョンに行きませんか?」
「へぁっ!?」
ダ、ダンジョン!?一緒に!?
「その、先週の冒険者試験会場にいましたよね?」
「あ…はい……」
確かに僕は1週間前に冒険者試験を受けたけど…
「ですよねっ!試験会場に同い年くらいの人が少なかったから覚えてたんです。どうですか?」
「あ、えっと…」
お、驚いた…けど、上位の冒険者は部隊を組んでダンジョンに入るって聞くしありかも…?よ、よし...せっかくだし…誘いに乗って…
「今なら私の友達も一緒に参加して3人で入れるよ!「こ、今回はご縁がなかったということで…」あれー?」
む、無理だ…初対面の人と二人きりでもハードルが高いのに…
「あ、その...じゃ、じゃあ自分はこれで…」
桜井さんが後ろで何か言っていたがスルーして僕はそのまま逃げるようにダンジョンのゲートに向かった。
ごめんなさい…ボッチにはハードルが高すぎる…!
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
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※ダンジョンの名前を変更しました