朝の教室
騒がしい朝の一幕。
同じクラスなので、俺は雪白さんと一緒に教室の中に入った。
……嘘だ、ちょっと半歩後ろに居た。
うーん……
クラスの男どもに嫉妬の視線でぶっ殺されるのはごめんだ。これが正式な彼氏なら俺もちょっとは自信を持って、堂々と隣にいられるのだが、生憎と俺は自分の立場を弁えている。
「璃衣、おはよ〜!」
「璃衣ちゃんおはよう!」
雪白さんの友人たちのお出迎えである。男子は総じてバッサリ切ってきた雪白さんだけど、反して女子のお友達は多い。皆んなの人気者だった。
彼女たちに、おはよう、とにこやかに返す雪白さん。ツンとした塩系美少女の雪白さんが、女子には柔らかに微笑みかけていた。
可愛い。いつか俺にもその笑顔向けてくれないかな〜なーんて……
淡い期待を抱いてみたりもするが、まだまだ道のりは遠いだろう。俺はめちゃくちゃポジティブだからいくらまでも待ちます雪白さん。いつか頼みます。
……さて、教室では頼もしい友人たちが居る。
不埒な輩が居たとしても、友人たちがガードしてくれる。つまり、男避けの俺の出番はない。残念ながら…!!
空気の読める俺は、わいわいとしている雪白さんとその友人たちから離れて、自分の席に向かう。
俺の前の席の友人は、既に登校していた。
「おはよう、朝日」
名は、瀬戸亮也。
女子にモテにモテまくる、我が校バスケ部のキャプテン。爽やか笑顔が目印。
今日も今日とてこの学校のルッキズムの頂点に君臨している男である。う、羨ましい!
「ああおはよう、亮也」
「…おー、今朝も雪白さんと登校してきた?仲が良くて何より」
俺は一瞬、言葉に詰まる。
男避けの分際で「仲が良い」と断言してよかろうか。いやそれは図々しいぞ夏目朝日。相手はあの雪白さんぞ?麗しき美少女様ぞ?
「仲良……?まあ、ぼちぼちだな!」
「ぼちぼち」くらいは、許されると思う!いいよな!
俺は、亮也の言葉に笑顔で頷く。
亮也は机に頬杖をついたまま、眉を下げた。目の前の俺ではなく、遠くをぼんやり眺めている様子だった。目がすぅと細くなる。
「……ああ…ああ、うん。相変わらずってことね。分かった………うん………ちっ、僕がアシストしてやったてのに。ポンコツかよ」
俺の肩が、ひゅん!と跳ねる。
し、舌打ちされてしまったぁ…。
……り、亮也、どうか怒らないでくれ…!!
お前に散々アシストしてもらっておいて、未だ距離詰められずに居る俺は恋愛的ポンコツなのかもしれんが、ビギナーだから多めにみてください。
そういや告白のタイミング、お前のおかげでバッチリでしたありがとう大感謝祭。
やっぱモテる男はそっから違うんだな〜。
いつ告白すれば成功率高いかまで、分かってるのだ。
しかし、そんな最大限のサポートを受けておいて俺は全然駄目な男だった。
「すまん、亮也……」
「え?急にどうした?」
「いや、呆れられてるぽかったから…」
「え?」
亮也は目を丸くし、それから合点がいったように、ひらひらと手を振った。
「……ああ!いや、違う、違う!朝日のことじゃないよ!いや、朝日はよく頑張ってるって」
「そうか?」
「うんそうそう。よく頑張ってるよポンコツ相手に」
うん?
ポンコツって、誰のことだ?
まさか雪白さんなわけないから……。
ああ。俺が、元はポンコツな自分に打ち勝って、よく頑張って雪白さんにアピールしてるね、ってことか?
元がポンコツだと思われてるのは癪だが、褒められてると思うと悪い気はしない。
「おうありがとう」
「…何か多分、朝日何も分かってない気がする」
「失敬な」
俺が通学用のリュックサックから、教材を取り出して準備をしていると、がこっと、引き出しの中で何かが当たる音がした。
昨日は机を空にして帰った覚えがあるのでおかしいなと思って見てみると、白い封筒が入っていた。
「…何だこれ?」
取り出して見てみるが、宛名も何も書いていない。
果たし状orモテ男亮也への恋文を俺の席と間違えて入れた、の2択だがどっちだろう。
できれば後者だと助かる。
柔道部あたりに果たし状されたら、歯が立たないので。
まあ俺はよくこのモテ男の女子からの取り次ぎを担当させられてるし、やっぱり間違って俺の席にコレを入れたんだろう。
「おうよ、亮也」
「朝日宛てでしょ。僕じゃないって」
「いつもみたいに亮也宛てだと思うんだけどな…」
「中を見てみな?」
亮也に渡すがノーサンキューされたので、言う通りに封筒を開封して、中に入っている手紙を取り出す。
そこに書かれてあったのはーーーーー
「………おん?ふむ……」
「ほら言った通りだったろ」
「いや、まさかと思うじゃん……」
なんと、人生初のラブレターなるものを、貰ってしまった。
相手は、1つ下の後輩。綺麗な字でさらさらと、告白の言葉。
それに加えて、今日の昼に中庭のベンチに来て欲しいという旨が書かれてあった。
本当かこれ?ドッキリじゃなくて?
半信半疑だった。
どうする。のこのこやって来た俺を、陰でけらけら笑ってる連中が居たら。
しかし、無視するわけにもいかないしな……。
「…というわけで、今日の昼は先に食べててくれ」
「了解〜。あー……」
いつも昼を一緒に食べている亮也に断りを入れておくと、亮也は了承しながら、遠くを見て小さく笑っている。にやにやしていた。
「ん?どうかしたか?」
「いいやあ?ただ…そうだなーーーーー」
亮也は、目を細める。
「うかうかしてると、誰かのものになっちゃうから、どうもお気をつけてーーーーーって、感じ?」
……何の話だろうか?