文化祭とコスプレ
アフターストーリー「文化祭編」です。
3〜4話構成でお送りします。
高3の5月。高校最後の文化祭が2日間に渡って、執り行われる。
まだ受験ムードもそれほど浸透していないので、思っているよりもお祭りムードで楽しめそうだ。
俺はイベントごとが大好きな男なので、意気揚々とクラスの文化祭実行委員に立候補した。
他にやりたい人間も居なかったということから、面倒な仕事引き受けてくれてありがとう!とクラスメイトから感謝されたので、良いことしたなと思う。
そしてそのまま文化祭実行委員の集まりで、文化祭実行委員長に推薦され、あれよあれよと何故か運営の実質のトップを務めることになってしまった。
ただ面倒な役回りを押しつけられたのでは?と心配になりつつも、人から頼まれると断れない…というより「頼りにされてる!嬉しい!」と気分を良くしてしまうのが、俺の良いところであり、良くないところでもある。
中学の時も『誰も立候補者が居ないから』と担任に頼み込まれ、生徒会長に立候補したのだが、マジで他に立候補者がおらず信任投票で当選してしまい、生徒会長を務めたこともある。
うちの中学は、会長選挙と生徒会役員選挙が別にあるのだが、会長職の不人気さとは裏腹に、生徒会役員選挙は、開校50年の歴史の中で史上最多の立候補者数の選局大荒れだったので、よく分からない。
特に凄まじい女子人気であり、当時の選局大荒れは、未だに俺にとって原因は不明なのだが、……アレだ。
アホそうな俺が会長を務めるくらいだから、『私でもできるかも…?』という女子が多数生まれたのかもしれない。
生徒会のイメージアップできたのなら、自分のバカさ加減を引き合いに出されたとて、嬉しいものである。
しかしまた次の年には立候補者がゼロに戻ってしまったので、人の動向を操るのもなかなか上手くいかないものだと、俺は世間の厳しさを目の当たりにした。
まあ、そんな調子ですぐに人におだてられて乗せられてしまう俺なのだが、当然、任されたからにはベストを尽くす所存だ。
今年の文化祭スローガンは『縁』。
人と人との繋がりを広げ、強める、そんな素敵な文化祭にしたい。
周りに勧められて務めた実行委員長だったが、幸いにも同級生をはじめとして、実行委員会内は穏やかな雰囲気でつつがなく進行した。
文化祭が近づくにつれて、心配よりも当日の楽しみの方が勝って行ったが、懸念事項もあった。
クラス企画の喫茶である。
何でも接客の最大4名までならコスプレOKという学校の謎ルールによって、クラスの中でじゃあ誰がやるかという話になったのだ。
ここで白羽の矢が立ったのが、俺の恋人である雪白璃衣であった。
まあ、分かってたよ?
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
学内で文句なしの一番の美人だから。
何故俺と付き合ってるのか、ふと真剣に考えるときもあるのだが、そんな時は「もー?そんなこと思えないくらい沢山くっつくねっ」と璃衣が一日中甘々に俺にくっついてくるので、そろそろ俺も理性の負けが近いかなと思ってる。
喫茶だから、女子はメイドで男子はウェイターやろうと勇気ある誰かが言い出して、璃衣はその4人のうちの1人に強く推薦された。
4人と言っても、2日間×午前と午後があるので女子の半分以上はやるのだが、じゃあ逆に誰がやらないかとなった時に、璃衣はその中に入れたくないという強い圧力があった。
これが男子からの要望だったら人の彼女になんて目向けてんだワレ?的な感じで釘を刺せるのだが、いかんせん女子たちの圧力によるものであった。
「璃衣ちゃんが着てるところを見たい!」
「メイド璃衣ちゃんに貢ぎたいです」
「雪白さんお願い!」
とまあこんな感じで、うちの彼女は女子人気が凄まじいので、逃れられない運命にあったのだ。
俺も見たかったし……
しかし、俺は当日になってやっぱり後悔し始めていた。
「どうかな、朝日くん」
璃衣がくるりと回る。長いスカートがふわりと舞った。
実行委員が忙しかったせいで、当日になって初めて目にした璃衣の姿に俺はしばらく立ち尽くした。
メイドと言っても甘めのデザインではなく、むしろシックなデザインのクラシカルメイドだった。
色もグレーで落ち着いてるし、スカートの裾も膝下まである。
だが!逆に!
璃衣はアイドルのような顔立ちというより、儚く綺麗系の美人であったがために、そのメイド姿がめちゃくちゃ似合っていた。
俺は教室の柱に頭をぶつけかけて、近くに居た写真部の女子に頼んで、一眼レフで璃衣のメイド姿を写真におさめてもらった。
スマホが校則で使えないので、写真部の女子に後で画像を貰うことにして感謝しつつ、俺はまた教室の柱に頭がぶつかりそうになった。
メイド璃衣に出会った衝撃が……
「璃衣……めっちゃ似合ってる」
「ふふっ。接客、頑張ります」
「…………それは、……ほどほどにね」
校外からも大勢来るので、璃衣に声をかけてくる男も居るんだろうなぁと思うと、心配かつ気が重たい。
璃衣は俺が珍しくガチ照れしてるのが見れて上機嫌らしく、「んふふ」と微笑んでいる。
「朝日くん、こういうの好きなのね」
「………まあ、好きだよ、そりゃあね」
特別にコスプレものが好きとかではないのだが、今好きになった多分。
「じゃあ今度お家でやってあげよっか」
「……勘弁してくれぇ……」
お付き合いももうすぐ一年近く経つが、璃衣のアタックも本気めいてきた。俺もそろそろ腹をくくるべきなのだろうか。
「ほら、そこのカップル。イチャついてないで、仕事しろ」
俺の友人の瀬戸亮也にお叱りを受け……というより、ニヤついてたので半分は茶化されただけだと思う。
奴も奴で、本日は恐ろしくイケメンなウェイターへと成り変わっていた。さすがは、学内1のモテ男であるうらやま。
「てか、朝日はまだ着替えてないの?」
「は?」
「え?」
俺と璃衣の疑問の声が重なる。
そりゃそうだ。俺は実行委員でクラスシフトにいつ入れるか直前まで分からなかったため、そもそもシフトに組み込まれていなかった。
「あれ?今朝山本くんからライン来てたでしょ。空き出たから、代わりに接客枠よろしくって」
「………マジ?」
文化祭関係で色んな人からラインが来てたので、見逃してたらしい。
身に覚えのない。
「朝日が今日の午前空いてるから、代わりに頼んだらって僕が言ったんだよ」
「あー……マジか。知らなかった。教えてくれてありがと」
めっちゃ裏方やるつもりだったわ。
「ってことで、早く着替えてきな」
「おっけ、……了解」
衣装を受け取り、内心このイケメンと並ぶのかやだわと思いつつ、残念ながら任された以上山本に報いなければならず。俺は教室を出て、着替えに向かった。
そして山本め、と恨んだ。
どう考えても、学内1の美男美女の揃う接客メンバーに俺が混ざっていると、場違い感が半端なかった。
その旨を亮也に伝えると、
「じゃあ朝日、イケメン天元突破しようぜ」
と現実からはなはだ乖離した計画を語り、トイレに連れ込まれた。
そしてワックスをベタベタに塗られ、俺が人生において一度としてしたことがないようなセンター分けと毛先の遊ばせ方をされた。
俺はとても後悔した。
こんなの、どう見ても文化祭という非日常に浮かれて調子乗ったイタイ奴である。
普段、俺が髪など寝癖がなければそれ以外はどうでもいいという無造作具合なのも相まって、こんなの……こんなの……っ、イタイ奴だ!!
「おい、亮也。やりすぎだ!どうするんだコレ!」
「………あっ」
鼻歌まで歌ってた亮也は、俺に指摘された途端に、顔色をさっと変えた。
明らかに「まずい……」という表情をしていた。
なあ、カットに失敗した美容師さんでも、もうちょっとマシな反応してくれるよ?
「まずい……やりすぎた……」
ガタガタと、亮也の手が震えている。
己の責任の重さに、ようやく気付いてくれたらしい…。
はあ、と俺は溜め息を吐いた。
「あのな?俺はお前と違って、ごくごく普通の顔なの。10人中10人が普通だと言う、フツメンなの」
「………そ、そうだね。朝日は、限りなくイケメンに近いフツメンだ……」
ほらな。
俺の擁護しかしないこの男が、ついに認めた!
それほどまでに、ワックスガチガチの遊ばせ髪がミスマッチということである。
「まあ、いいけど……この量のワックス落とせないし……お前の技術を生かしてやれない俺の顔が悪いし……てかもう始まるから、急がないと」
もうクラスと一般客の笑い者になるしかない。
皆んなに笑いを届けられるという超ポジティブシンキングで乗り切るしかねぇ。
いいよ、皆んなが笑ってくれるならっ、それでいいさっ!
何故か震えている亮也を連れて、クラスに戻ると案の定、女子の視線が手痛かった。
男子にいたっては、てっきり笑ってくれるのかと思いきや、憐れまれてるのか、誰も触れてこない。
そして、璃衣と目が合うと、……
彼女はすぅと目を細めて、俺からぷいっと視線をそらした。璃衣なら、優しくしてくれると、思ったのに……!
フツメンの彼氏が急に調子に乗り出したイタイ奴に見えて、嫌だったのかもしれない。
最悪だ、蛙化とやらである。
救いが………ッ、ナイ……ッ!!
俺はもはや笑い者にすらなれなかったショックでふらふらになりながら、開店準備に取り掛かった。
亮也は、震えていた。
怖い。明らかに機嫌が損なわれている。
そして、彼女が来た!!!
「ねぇ、瀬戸くん。アレはどういうことかしら?朝日くんをあんなにカッコよく仕上げて、今日絶対女子にモテモテになっちゃうのだけれど?」
「ごめん、雪白さん。……ファイト…」
限りなくイケメンに近いフツメンを、きちんと飾りたてれば、どちらに転ぶのか言うまでもない。
クラスの女子はトキメキ戸惑い、男子は呆気に取られている。
途中までノリノリだった亮也も、璃衣の機嫌が損なわれる可能性に思い当たり、途中から恐怖していた。
やりすぎた、と友人の彼女に叱られながら、亮也は遠い目をした。
そして、いよいよ文化祭は始まろうとしていた───
「よっす。颯汰!来たな!早く朝日とりーちゃんの文化祭行こうぜっ。俺、チョコバナナ食いたい」
「あ、待っ、…ま、まだ一般客は入れないよ…真昼くん」




