エピローグ 彼女と進んだその後
いつの間にか季節は移ろい、夏はとっくに過ぎ去って、秋が深まっていた。
高校生活の半分以上が過ぎたのだと思うと、あっという間すぎて、感慨深い。
俺は、廊下の壁に肩を預けた。
野球部がグラウンドを周回しており、活気のある声が校舎の中まで響いていた。土に汚れた白のユニフォームがいかにも、青春という感じだ。
そんな調子で窓から校庭の景色を眺めていると、タッタッタ、と軽快な音がこちらに駆け寄ってきた。
その主が誰かは、言うまでもない。
「朝日くん朝日くん朝日くーんっ!」
「のわっ」
どーん、と俺にアタックする彼女。じゃれ合いみたいなもので、あまり衝撃はない。
俺が驚いていると、俺の腰あたりに彼女の手が回された。…いかにもプチダイレクトアタックのついでを装ってたが、多分こっちが本命だろう。
彼女が割とひっつき虫の甘えん坊なことに、交際も半年を迎える今では、よく知ってる。
「びっくりした、璃衣」
「うふふ。待っててくれてありがとうね」
雪白璃衣。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そんな形容がお世辞抜きに似合う美人。
………そして、俺の彼女だ。
未だに、都合の良い夢でも見てるんじゃないかとたまに疑ってる。
この間なんか上2人の兄貴とその彼女たちに絡まれ(母親が璃衣を初めて紹介した後に速攻で兄貴たちにバラした。あの母親め)、璃衣とのことを根掘り葉掘り聞かれた上に、璃衣の写真を見せたら、爆笑された。
『アハハこんな美人に相手にされるわけないだろ』と夕哉兄。
『合成写真?よく出来てるね』と真昼兄。
『朝日って見かけによらず女子の理想高いんだね』と夕哉兄の彼女の、寧々姉。
『朝日ってチョロいからもう既に壺買ってたりして』と真昼兄の彼女の、陽菜姉。
ーーいや、酷いな。改めて思い出しても酷いな?4対1はもうイジメですよね??
何なんだあの4人は……!!
確かに、疑われるレベルで綺麗な美人を彼女にもらいましたけどさ!
失礼すぎる。末っ子の俺に人権はないのかな。
璃衣に会わせろとうるさい兄貴+彼女ズたちのことを思い出し、俺がやれやれと思っていると、
「………あーさひくんっ。もー考え事?」
璃衣が俺を見上げて微笑む。
身長差がある分、上目遣いな彼女の一撃はかなりの威力だ。
付き合いたての頃はそんなことはしなかったのに、今では俺が照れると分かってて、意図的にやってるんだからタチが悪い。……ごちそうさまです。
「ううん何でもない。じゃあ帰ろうか」
「うんっ」
職員室に用があるという璃衣を廊下で待っていた俺は、合流したので彼女と連れだって歩き出す。今日は2人とも部活が休みなので、一緒に帰る約束をしていた。
階段を降りながら、璃衣と今日の授業中に起きたプチ事件を話していると、上ってくる黒髪の蓬髪の男とすれ違う。
友人だったので、「よっ」と片手を上げて挨拶した。
「じゃあな、鎌瀬」
「へなななな、夏目くんッ!ご、ごきげん麗しゅうございますッ!お気をつけてお帰りください!」
鎌瀬はあわあわと口と肩を揺らし、ぎこちない挨拶を残して、ぴゅーっと階段を駆け上がって行ってしまった。脱兎の如く俊敏な動きで、取り残された俺は首を傾げた。
「鎌瀬って、貴族だったんだな。ごきげん麗しゅうだってさ」
「………はあ。朝日くん。貴方優しすぎるし、甘すぎない?」
「さあ、何のこと?」
「もう」
俺が惚けると、璃衣は拗ねたように口をとんがらせた。まあ、璃衣の気持ちも分からなくはない。
鎌瀬は半年前……まだ俺と璃衣が付き合いたてだった頃に、稚拙な嫌がらせを仕掛けてきた相手だった。
俺だってビリビリに破られた東先生の花丸のついたノートだけは許してないからな?
なので、璃衣と想いを伝え合って絶好調だった俺は当時、その勢いのまま、鎌瀬に特大級の嫌がらせをしてやった。
『よし、友達になろうぜ鎌瀬!俺のこと嫌いなんだろ?だから嫌がらせしてやる!つまり友達になろう!』
『……え?』
俺のことが死ぬほど嫌いな鎌瀬に、正面から友達になろうと申し込みに行ったのだ。
嫌いな相手に構われることほど、鎌瀬にとって煩わしいことはなかっただろう。奴は俺が教室に現れるたびに泣いていた。しかし、俺は恐ろしいほどポジティブシンキングでまったく気にもせず、勝手に構いに行った。
「……いやー、鎌瀬もまさか泣くほど俺が嫌いだったとはな。俺も意外と嫌がらせの才能があるかもしれない」
「朝日くん。一言言っていい?」
「ん?」
璃衣は、珍しく俺に対して呆れた顔をしていた。ちょっとこの人どうしようかしら……という、ほとほと手を焼いている顔だった。
「朝日くんの今のあだ名知ってる?」
「うん?そんなのがあるの?」
「うん。……聖女」
「聖女ォォ!?」
待って、何がどうなってそんなあだ名になったの!?
俺が呆けていると、璃衣は溜め息を吐いて、それから頰に手を当てた。事情の分かっていない俺に、ゆっくりと語ってくれた。
「……あのね、朝日くん。あの後、(私と瀬戸くんがバラして)鎌瀬は朝日くんに最低な嫌がらせをしていたことが露見して、クラス中で孤立していたの。鎌瀬はおかげでボロボロだった。そんな中、堂々と被害者の朝日くんが教室に乗り込んで行って、鎌瀬に『友達になろう』って言ったでしょ?」
「え、あいや……まあ……うん」
廊下から見ていて、他クラスの鎌瀬がポツンとしていたので、気に掛かったのだ。
一方で俺は、学年中の生徒からは「大変だったね」「大丈夫雪白さんとの仲は私たちが守るからね」と励まされていたので、「鎌瀬はもしかして俺への嫌がらせがバレてああなってるんじゃ?」とすぐに思い至った。
「そして、人の良すぎる朝日くんは嫌がらせされてたこともまるで無かったかのように振る舞って、孤立している鎌瀬に手を差し伸べた……鎌瀬は、そこで自分の悪意を超える超ド級のお人好しの善意を流し込まれて、目が覚めたそうなの。今では貴方の忠誠なるしもべよ」
「は、はあ………」
え、待って。俺はフレンド申し込みしに行っただけです。本当に嫌がらせしに行っただけだよ?
「おかげで、ますます朝日くんは学校中にファンを増やして、ついたあだ名が聖女よ……」
「おかしいッ!何で聖女になった!?俺、男なんだけど!?」
誰が言い出した。ちょっと出てきなさい。俺と話し合おう。誰が聖女じゃ。
「とにかく貴方がお人好しすぎるって、話。私や瀬戸くんは、まだ鎌瀬のこと許してないわ」
「………別に俺も完全に許したわけじゃないけど」
「あら、そうなの?」
璃衣が意外だったように、俺を見る。パチクリ、と長い睫毛を瞬かせた。
俺は苦笑した。
「……うん。でもまあ、まだ初犯だし」
「初犯」
「俺は、一回は許せるタイプなんだ。もちろん、2度目はないよ?……でもまあ、人から嫌われたままで居られるのは、案外苦しくてさ。それなら歩み寄って、少しでも好かれる努力をしたい。それでも駄目だったら、さすがに諦めるけれど」
ポジティブでいるのも、人の悪意に鈍感でいるのも、いくら俺でも辛い日はある。
それなら、やっぱり分かり合いたいと思うのだ。
万人は無理なので、その時はきっぱり諦めるけれど。
「……それに別に、お人好しってほどでもないよ。俺のせいで孤立した鎌瀬にまた倍で逆恨みされても困るし。それならいっそ、友達になればいいかなって」
俺はニヤッと笑った。どうだろうか、今の俺はなかなか良い悪役顔をしているんではなかろうか。
璃衣は、はあぁぁぁと長い溜め息を吐いた。予想外の彼女の反応に、俺は目を丸くしてのけ反った。
「何で!?」
「いえ、うん。……やっぱり朝日くんは、お人好しが過ぎるなぁって。貴方って、本当……何度も言うけれど、悪意を上回る善性を返して相手をたらし込む天才なのよね………先が思いやられるわ……」
璃衣は、もう一度溜め息を吐いた。
俺が戸惑っているうちに、璃衣は俺の腕を取って、コツンと頭を俺に預けた。
ぴとりとくっついた彼女の柔らかい感触を感じて、俺がドギマギしていると、璃衣は「ふふっ」と笑った。
上目遣いに、コトリ、と首を傾げた。
彼女の瞳が真っ直ぐと俺を見つめた。
夕日の差し込んだその美しい造形が、俺の心を奪った。
「まあ、でも……そんな朝日くんが、私は大好きだからね?」
「………っ、ずる。その顔、ずる……」
「うふふ」
俺が照れさせられて空いてる片手で顔を覆っていると、璃衣がいたずらめいて笑っていた。付き合って半年。彼女は随分と成長し、今では立派に俺を手玉に取るちょい小悪魔だ。
おかしい……素直になるのは、俺の特権だったのに…。
こんなストレートに言われては、俺の身が持たない。
彼女が俺の腕を取って密着したまま、夕方の電車に乗り込んだ。今日は下校ラッシュと被らずに、そこそこ空いていた。ただ席はなかったので、扉近くに立った。
俺が景色を眺めている彼女の横顔に見惚れていると、彼女の形のよい唇が開いた。
「………それでね、朝日くん。今日、私の家誰も居ないの」
「………ん?」
「今日はね、お父さんもお母さんも、仕事が忙しくって帰ってこないらしいの。お兄ちゃんも、今日はサークルの友達の家に泊まるって」
「…………そ、そう」
「ええ、そうなの」
「そ、そうなんだ………」
璃衣は口元が笑っていた。どうしてこっちを見てくれないのかと思っていると、彼女は代わりに扉のガラスに映り込んだ俺の姿を見ていたらしい。俺が動揺して璃衣をガン見していたのが、彼女からはバッチリ見えていたようだ。
ふふふっ、と璃衣はおかしそうに笑っていた。
それから時が満ちたとばかりに、璃衣がくるりと俺の方を見上げた。
囁くように、しっとりと呟いた。
「ねぇ、どうしよっか朝日くん」
「誘ってる……?」
「うん、お誘いしてる」
誰が璃衣をここまで素直にさせてしまったのか。……俺か。
俺は璃衣の家には何度か上がったことがある。彼女の両親にも、既に夕食の場でご挨拶したことがあった。残念ながら、璃衣のお兄さんにはまだご挨拶できていないけれど。その時は、大学の仲間と合宿に行ってたとか何とか。
まあ、だから家に招かれることは、初めてではない。
しかし、『親いない宣言』は初めてだった、親が居なくても、璃衣に親いない宣言されたことは未だかつてなかった。
こ、これは………
「ねえー、どうする朝日くんー」
「………り、璃衣は、どうしたいの」
「私は、そうね。そうだなあ……最後まではまだ分かんないけど、………もっと、段階進んだイチャイチャはしたいなって、思うよ?」
「………そっ、か」
だ、段階進んだイチャイチャとは、果たしてどこまでなのか。
どうしよう。俺、初彼女なので、何も分からないです。駄目だ……モテモテキングの亮也に聞いときゃ良かった……。
不慣れすぎて、恥ずかしい。
俺がドギマギしていると、璃衣は好機とばかりに俺にさらにピタリとくっついた。どこで習得したのか、背伸びをして俺の耳に手を当てて、しっとり囁く。
「………朝日くんは、どうしたい………?」
「………っ」
やばい、耳から堕とされる。
付き合って半年。彼女からその手のアピールをされるようになり始めて、俺は陥落させられる寸前だ。
自分の欲望と、彼女を大事にしたいという思いがせめぎ合い、俺は葛藤した。
「…………たい」
「ん?」
「さ、最後までは分かんないけど、まだ今日は保留させて欲しいけど………でも、今よりもっと璃衣と進みたいって思ってる……」
俺が耳を赤くさせながら、何とか絞り出すと、璃衣は微笑んだ。彼女はそこに隠しきれない喜色を露わにさせていた。淑女みたいな笑みの中に、少女らしい輝きが忍ばせてあった。
「うん」
そして、俺の指をするっと絡め取ると、きゅっと握った。俺の肩近くに頭を預けて、そっと瞳を閉じて気を許しまくっていた。
ああ、やばい……嘘ついたかもしれない……
鞄の中にこっそり入っているアレの存在を思い出し、暴走しかけている自分の脳内を何とか打ち消す。
ち、違う違う……アレはただ本当にもしもの、もしものときのためであって……俺がやらかしそうな時にやらかさないためのものであって………
ていうか夕哉兄がふざけて、この前俺が居ないところで俺の鞄に入れただけで…使う気は一切なく………
ここ最近の璃衣のアピールに危機感を覚えてたから、入れてただけで………
俺は「くっ」と決意代わりに拳を固めた。余計な邪念は霧散させた。
「…………頑張れ俺……俺は、あの爛れた上2人とは違って、誠実な学生のお付き合いをするんだ…っ…!」
「あ、朝日くん?どうしたの?」
璃衣が不思議そうに見ていたが、さすがに昔のうちの兄貴ズたちの彼女との爛れた高校生活を、身内の恥なので語るわけにもいかず、曖昧に微笑むしかなかった。
反面教師だ。
俺がいつも降りる駅は通り過ぎ、璃衣の自宅の最寄り駅で、2人とも下車した。
一歩一歩と近づいてくるその時を意識すると、緊張してまともに会話が出来てるか怪しくなった。
それは、璃衣も同じだったようで、急に口数が少なくなった。さきほど電車の中で小悪魔になって俺を誘っていたのと同一人物とは思えない。
璃衣は、俺をチラリと見上げては俯き、またチラリと見ては俯き………。
「………私、そのは、はじめてだから……」
「な、っ、」
俺は固まった。待って。住宅街のど真ん中で急に何を言い出すんだ、この子は。
しかし、彼女は彼女でまたテンパってるらしく、俺が動揺しているのに気付いていなかった。
彼女がきゅっと目を閉じてから、ゆっくりと開いた。
「その………や、優しくして、ね……?」
うるりと。
赤く潤んだ目で見上げられて、俺は全部意識が持ってかれた。頭がくらりとする。俺の緊張の分、刺激と衝撃が強く、初めての体験だった。
ああ、クリティカルヒットをぶち込まれてしまった。
しかし何とか持ち直し、彼女を安心させるために力強く頷き返した。ここで返さなくては、甲斐性のない男になってしまう。
きちんと、言葉にしておかなければ。
「もちろん。……大切にする」
「…っ、うん……っ」
彼女はこくこくと頷いた。少し安心させてあげられただろうか。
いつの間にか、璃衣の自宅の前へと到着していた。
白塗りの洒落た一軒家。
ここからは、また口数が少なくなってしまった。お互いそわそわしながら、そっと扉へと近づいた。
「あ、開けます……」
「う、うん」
璃衣は鞄から鍵を取り出して、玄関の鍵穴に差し込んだ。それをガチャリと時計回りに回して、彼女は玄関の扉を開けてーーーーー
ガン、ガンッ。
「「ん?」」
開かなかった。
おかしい。たった今、璃衣は鍵穴を回したはず……
うん?待って、この家ってドア開ける時、鍵って反時計回りじゃなかったか。
璃衣は、たった今時計回りに回してた。それは、施錠する時の場合だ。
つまり、扉は、最初から開いていた……。
「…………」
璃衣は無言のまま、もう一度鍵穴を回した。今度はきちんと、反時計回りだった。ガチャリ、と解錠の音がした。
「……うふふ。ちょっとここで待っててくれるかな、朝日くん」
璃衣は笑っていたが、目が笑っていなかった。
それは彼女が男をこっぴどく振るときの、氷点下の眼差しを秘めていた。
俺はこくこくこくッと頷いた。
彼女は玄関の扉を開き、中へと上がった。
扉が閉まる寸前、若い男の声がした。
チラリと見えたそのシルエットは、お顔が璃衣によく似ていた。
「ん?ああ、璃衣お帰り。ちょーど良かった。いやー、1人風邪引いて、泊まりなくなったんだわ!今お兄ちゃんな、お前の好きなシュークリーム屋の期間限定買ってきたとこーーーーーー」
「死ねぇぇぇ、バカお兄ちゃん!!!!」
「ドェェェェェ!!!!」
中から悲鳴が聞こえてきたが、恐らくアレは璃衣のお兄さんだろうか。どうやらこの雪白家では、妹の方が強いらしい。
俺の家とは逆だった。
…………うん….よし。
聞かなかったことにしよう……。
その後、俺は雪白家に招き入れられた。
リビングに通されると、明らかに何かにやられたボロボロの璃衣のお兄さんがソファに突っ伏したが、璃衣は特に気にしていなかった。
そして、兄が買ってきたシュークリームを俺と自分の前に置いた。彼女はニコニコだった。
俺の前に置いたけど、これ、お兄さんの分だよね……?
俺は流石にいただくわけにはいかず固辞したのだが、璃衣に口に突っ込まれてしまい、お兄さんのシュークリームを犠牲にしてしまった。
俺は罪悪感に耐えきれず、急いで駅前にダッシュして、シュークリーム1つとプリン3個を購入して、雪白家に戻った。
既に起きたお兄さんは、消えた自分のシュークリームと妹の手厳しい行動に泣いていた。
「お兄さん……コレ……」
「もしかして、わざわざ買って来てくれたの。そして、君は璃衣の彼氏か……?」
「は、はい」
俺が差し出したシュークリームに、お兄さんはドバッと涙を流した。そんなに好きだったんだろうか。いや、妹に泣かされてるのか……
「お、義弟ーーー!!!好き!!俺もう君のこと好き!!璃衣の彼氏なんて、璃衣と一緒になって俺のこといじめてくるんじゃないかって、怖くて避けてた!!ごめんね!!」
「さ、さようでしたか……」
前に雪白家の夕食の場に居なかったのは、そういうことだったのか。
うん、なんか……いい人だな?
あと璃衣に似てめっちゃ美形だし。すげえ、璃衣の男版だぁ。
しかも何故か抱きつかれた。距離の詰め方がえげつない。
「ぷ、プリンも買ってきました。好きですか?」
「うん、好き!何、この子。完璧か?あ、俺は雪白颯汰です。いやー、璃衣のきっつい性格じゃ、まともな男連れて来ないと思って心配しーーーーぐはっ!?」
俺が渡したプリンを既に食して、璃衣はお兄さんの頭にクッションをぶん投げた。
お兄さんは、倒れた。お兄さんはあまり耐性がないらしく、ピキピキと指が痙攣していた。
ふらふらと立ち上がった璃衣は、別のクッションを抱き抱えて戦闘態勢。
「んもぉぉー!私の朝日くんに抱きつかないで!!離れなさい今日の大戦犯お兄ちゃん!!私の覚悟を返して!!何で家居るのよ、もーっ!!」
「り、璃衣……お、落ち着け……」
俺は璃衣を止めるが、璃衣は彼女の覚悟が空振りで終わったことにたいそうご立腹なようで、なかなかおさまらず。
「た、助けて、義弟……」
おびえたお兄さんが、俺の肩に隠れる始末。
た、大変だな。
「だから、私の朝日くんにベタつかないでよ、この彼女いない歴イコール年齢の残念日陰男!」
「う、うう………」
ちょっと待て可哀想すぎる。お兄さん不憫すぎる。
てかこの顔面で?嘘だろ。
「だ、大丈夫ですか、お兄さん。待っててください。俺が璃衣を止めてみせますから」
「お、義弟……!」
グッジョブと親指を立てると、お兄さんは年下の俺を頼もしい兄貴でも見るかのような眼差しを送った。
そして、何故かまた抱きつかれた。
「もう俺朝日くんと結婚する……」
「うふふ、お兄ちゃんー。何か言ったー?」
「こんないい子がうちの妹と付き合ってるなんてもったいなーーーーほげぇぇぇぇぇ!?」
再びクッション弾丸、もとい激しい一方的な兄妹喧嘩が始まった。お兄さんは、わざと地雷を踏みに行ってるんだろうか。そして、妹はまったくおさまる気配がない。
「うーん、まあ、これも新しい一面が知れたということで………」
「彼女もできたことのないお兄ちゃんには分からないだろうけどね、場所確保するの大変なのよ!私は今日が大チャンスだったのに、バカーッ!」
「じゃあ事前に言ってくれ!お前の根回しが甘かっただけじゃん!てか、彼女いたことない云々は関係ないだろう、うう……っ!」
新しい一面が知れたということで、いい……かな?
ちなみにその後の話をすると、俺と璃衣はそのまま順調にお付き合いを続けて、高校卒業まで清い関係を誓っていたが、あっさりと璃衣に陥落させられ。
そして、うちの兄貴ズのひとり真昼兄が、璃衣のお兄さんである颯汰さんと同じ大学だと判明し。
あちこちで絡んでくる真昼兄の陽キャキングぶりにおびえた颯汰さんが、俺にたびたび泣きついてくるのは、もう少しあとの話ーーーーー
これにて本編は完結となります。
ここまで読んでくださった皆様には、感謝しかありません。
もし需要ありそうでしたら、アフターストーリーを何個か書こうと思います。
リクエスト等あったら、感想是非是非〜。
朝日と璃衣を見守ってくださり、ありがとうございました。またお会いできる日をお待ちしております。
(他の作品も是非チェックしてくださると嬉しいです)
本当にありがとうございます。
夜亜




