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これが俗に言う

電車を降りてから学校までの通学路。

うちの高校の制服を着た生徒たちで、道路は溢れている。


俺は、隣を歩く美人を見た。雪白璃衣さん。

俺の彼女だ。

…といっても俺は男避け用の彼氏ーーーーというのは、どうにも違うらしい。


その件で、昨日のデートの帰り道の間ずっと、「何故夏目くんはそこまで鈍感なのか」問題を彼女は提唱しており、俺に解説を求めてきていた。


『俺って、別に鈍感では……』

『本気で言ってるのかしら!』


といった次第で、雪白さんはぷんすか。

一晩経っても、それは変わらなかったようで。


雪白さんは頰を膨らませて、ずんずんと俺の隣を歩いている。それでも歩調は合わせてこようとするあたり、彼女はとても可愛らしい。


「雪白さん……お、怒ってる…?」

「いえ別に。貴方に対して怒ってるわけじゃないの。元々私が誤解を与えるようなことを言ってしまったのが悪いし、未だに肝心なことを言ってない私が悪いもの!……でもね、気付いてくれたっていいと思うのよ。夏目くんが気付いてくれたって、いいと思うの。私、結構答えを言ったのに」


あ、怒ってるんだね……ごめんなさい。

でもどうしたらいいか分からないから、はて困った。


付き合い始めてもうすぐ2週間が経とうとしているが、雪白さんがこんなにぷんすかしているのも初めてだし、俺は雪白さんのご機嫌取りの方法を知らないのだ。


一番はもちろん、彼女が腹を立てている根本の原因を解決することだ。しかし、それは実現出来そうになかった。俺は認めるしかない。俺は鈍感だった。

彼女が俺の何に対して「鈍感」と言っているのかが、分からないのだ。


努力しなかったわけではない。

昨日の晩、一生懸命考えた。


考えたけれど、俺は「雪白さんってもしかして元から俺のこと好きなんじゃね?」とかいう勘違いムーブをしてしまう始末。

あはは、そんなわけないだろ。

しかし、それ以外に納得の行きそうな答えが出ずに、俺は自分のバカさ加減を恨んだ。


つまり、もうご機嫌取りするしかないのだ。


「お荷物、お持ちしましょうか」

「いいえ、結構」

「そこのコンビニ行ってスイーツでも買って来ましょうか」

「大丈夫よ」

「な、何したらいい?」

「じゃあ私の頭撫でてて」

「分かった!」


よく分からないけど、撫でろと言われたので、雪白さんの頭を撫でておいた。

何だこの手触り?スベスベなんだが。人の髪って、実はこんなスベスベになるの?嘘でしょ(衝撃の事実)。


よーしよーし〜、どうかこれで機嫌をなおしておくれ〜。


「ど、どう?」

「………ん、心地いいわね」


雪白さんは目を瞑って、ふんふんと俺の手に頭を預けて来た。

わーい。雪白さん的上位のお褒めの言葉をいただきましたよー。


しかし、雪白さんは、はっ!と目を開いて、俺の手をどかした。雪白さんの、日を浴びたことがないんじゃないかという白い手が、俺の手首を掴んで持ち上げた。


「終わりッ!も、もう結構!」


彼女の視線は周りを見回している。そうだった、学校の通学路だったよここ。俺も今思い出したよ。完全に意識が2人きりのそれになってたよ。


結局、雪白さんの機嫌を完全になおすことは叶わず、俺と雪白さんは昇降口へと入った。同じクラスなので、隣に並ぶような形だ。


ロッカー式の靴箱を開けてーーーーー


俺はバタン!!と勢いよく扉を閉めた。

その音に、隣に居た雪白さんは目を丸くしている。彼女は自分の胸を押さえた。


「び、びっくりした……夏目くんどうしたの、靴履き替えないの?」

「………えっと」


俺は何と言い訳するか悩んだ。

靴から校内を歩く用のスリッパに履き替えなくては、教室に行けないのだから、雪白さんの指摘はもっともだった。


「………スリッパ、履き替えないの?」

「履きます、履くよ、履くんだけど……ええと」


いっそ俺の靴箱の中身見せて、雪白さんに相談してみるか…?


そんな考えが頭をよぎったけれど、彼女は人が良すぎるきらいがあるから、この手の相談事をして心配をかけさせてはいけない、と慌てて打ち消した。

それに、ただでさえ雪白さんの機嫌を損ねてしまっている現状に、厄介な面倒を持ち込みたくない。


つまり、どうにかして、彼女をこの場から移動させる必要がある。


「俺、提出物あるから、職員室寄って行く。だから、雪白さんは先に教室行ってて」

「それくらい、待っておくわよ」

「あ、いや、先生との話長引きそうだから、待たせるのは申し訳ない」

「……まあ確かに、夏目くんってよく先生たちとお話してるものね」


バカだが、進んでクラスの委員などの役職を引き受けているおかげか、教師からは割といい評価をもらっている。よく教師の誰かしらとは、授業の質問が脱線して世間話になったり、普通に話をしていた。


雪白さんも俺に対して、そんな印象があったらしい。

それを引き合いに出すと、雪白さんは「分かった先に行ってるわ」とすんなりと引き下がった。


彼女に手を振って、俺ははあ、と溜め息を吐いた。

靴箱の扉に手をかけて、もう一度、きい…とその扉を開ける。


俺の見間違いだったりしないかなぁ。

…とか都合のいいことを願っていたけれど。


俺の靴箱の中身は、なかなかに悲惨だった。

まず置いてあるはずのスリッパが見えない。

何故見えないかって?


紙クズと土のミルフィーユ仕立てだからだ。


どこかしらの教室のゴミ箱からかっぱらってきたんだろうな、と思わせられる紙クズとその他諸々のゴミ。

手にとって開いてみると、『1年7組』の生徒の名前が書いてある英語のプリント。

またまた開いてみると、今度は『2年3組』の生徒の数学のプリント。


………もしかして、コイツ色んな教室のゴミ箱から集めて来たのか?


無駄に手が込んでるッ!!


ゴミをどけてスリッパを取り出したが、土まみれだった。うへぇ、と俺は昇降口を出て、その土を払った。しかし、ゴム製のスリッパに土が若干、染み付いている。


これ履くのやだわー……。


今のところ他の生徒がこのエリアに登校して来ないので、助かった。何やってるんだこの人、みたいな奇異の目を向けられずに済んだのが幸いだった。



「うーん、見間違いじゃなかったぁ……」


もしやコレは、あれではないだろうか?

俺の人生でお初にかかる、あれではないだろうか?


これはーーーーーー


「い、いいいいいじめ、だ…!!」


動揺しまくっていた。


いいいいいや、決してショックとかではない。俺のことをここまで嫌いな人が居たんだ、という事実にショックを受けているわけではない、決して。

感慨深いな、ハハッ!


実在したんだッ!こんな古典的ないじめが未だに存在してたんだ!


しかも、だいぶ手が込んでますね!



俺は目頭を押さえた。

うん、やっぱりショックだった。


………誰だよう。

俺がなんかしたなら、謝るから出てこいよぅ……!!

ごめんて。









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