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写真撮ろ、記念にさ。

この遊園地の定番であるカチューシャをつけて、俺と雪白さんは園内を歩く。


俺が手を差し出すと、雪白さんがおずおずと自分の手を出して。

俺が彼女の手を握ると、彼女も俺の手をきゅう…と握り返したあたりで、俺の中の雪白さん可愛いメーターが爆発していた。

伏し目がちにチラチラと俺を時折見上げてくるのも、すごく可愛いと思った。


俺の中の雪白さんのイメージはずっと、クールビューティーの美人というものだった。凛とした空気を纏って、いつも麗しい、学内の人気者。


もちろん、彼女のそういう部分に惹かれたから告白をした、というのも間違いではない。


でも、俺は雪白さんのそういった綺麗で凛とした部分とは別に、大きく彼女に対して惹かれた部分があった。多分、学校のほとんどの人間が知らないんじゃないかという、彼女の別の顔を見た。恋に落ちた。

だから玉砕覚悟で、雪白さんに告白をした。


まさかOKを貰えるとは、つゆほども思ってなかったんだけれど。


俺と雪白さんは、観覧車の前の、フォトスポットを通りかかる。

遊園地のスタッフが常駐していて、今も女子高生3人組がそのスタッフに写真を撮ってもらっていた。

きゃきゃっと、楽しそうに何のポーズをするか相談している。


雪白さんはそちらをちらりと見て、僅かに口を開く。彼女の顔が少し華やいだのが、横顔でも分かった。

彼女の瞳は、羨ましそうにその3人組を眺めた。


ああ、これは。


なのに、彼女はその興味の色をすぐに仕舞って、俺を見上げた。いつも通りの、クールな表情だ。


「夏目くん、何に乗りたいかしら」

と俺に気遣って、そんなことを尋ねた。


俺はよく鈍感だと周囲に言われるけれど、それは人間関係の話だ。末っ子で人の顔色を窺う処世術を図らずとも磨いてきた俺は、相手の行動を察するのは得意なのだ。


「雪白さん、その前にさ……写真、撮らない?せっかくだし。記念に」

「………えっ」


雪白さんの切れ長の目が、小さく縦に見開く。それは俺の提案が唐突だったからとか、彼女の思うところではなかったとかではなく、純粋に驚いている様子だった。

彼女は自分の片頬を、ぺたりと押さえた。


「何で、分かったの……?」

「分かるよ。……好きだから」


我ながらクサイ台詞だったけれど、これ以外に言いようがなかった。好きな人のことは好きだから、その分よく見ている。だから、気付いた。


雪白さんの瞳が揺れて、彼女は勢いよく顔を覆った。

俺と手を繋いでいるから片方だけなんだけど。それでも顔の大部分が隠れる雪白さんの、顔の小さいこと。


「……っ、貴方は何で、そんなさらりと言っちゃうの。言われる私の身になって欲しいわ……」

「ごめん。嫌だったらやめる」


俺はしょんぼりした声を出しつつ、顔は笑っていた。意外と自分は好きな人に優しくしたいの一辺倒じゃなかったらしい。意地悪だってしてみたい、などという自分が顔を覗かせている。


男避けの彼氏だと思ってた。ただタイミングが良かっただけだって。でもそれ以上の何かがあるんじゃないかと期待できるくらいには、俺は雪白さんのことを知り始めていた。


雪白さんは、びくりと肩を跳ねさせて、顔から手をどかす。うるうると俺を見上げた。


あー…何か雪白さんの扱い方が分かってきたような。


「な、夏目くんに好きって言われるのは……えっと、その………」

「え、なになに。教えて」

「っ、あ、煽らないでっ。……えっと、な、夏目くんに好きって言われるのはね、………その、……」


雪白さんは俺を見上げたまま、ぽつりと呟いた。


「とても心地がいいわ……」


心地がいい。


「嬉しい」ほどストレートではなく、「嫌じゃない」ほど遠回りじゃない。


俺からの好意が彼女にとって、重荷ではなく、心に響かないものでもなく、「心地のいい」もの。


ーーーー雪白さんらしい。


俺は思わず笑みが溢れた。なんだかんだで、彼女の言葉次第では傷つくことも覚悟していたからかもしれない。


良かった。俺はこのまま、雪白さんに好きになってもらえるように頑張っていいんだ。


「ありがとう、雪白さん」

「………お、お礼を言われる要素なんて、あったかしら…?夏目くんって、少々人が良すぎるんじゃないの」

「そんなことないよ」


もしそれを言うなら、雪白さんも同じだと思うけれど。俺は雪白さんのそんな「人の良すぎる」部分に、かつて恋に落とされたんだから。


ちょうど、女子高生3人組は撮影を終えてフォトスポットから場所を移動した。

俺は雪白さんの手を引いて、そこに立っているスタッフさんに、写真をお願いした。

スタッフさんは笑顔で頷いてくれた。雪白さんをちらりと見て言う。


「彼女さんですか?」

「はい。実は今日が初デートで」

「それじゃあ、気合い入れて撮らせていただきますね」

「はい!ありがとうございます」


スマートフォンを手渡して、俺と雪白さんは観覧車をバックに、横に並んだ。


「ポーズどうする雪白さん」

「ぶ、無難に、ピースとか?」

「いいね、じゃあピースでやろ!」

「………あ」


写真を撮るからと手を離そうとした俺の手を、雪白さんは、ぱっ!と掴んだ。

雪白さんが、首をふるふると振った。


「このままがいい。手、繋いだまま…撮りたい」


俺は瞬きを繰り返した。

雪白さん、可愛いんだが。

いや、知ってたけれども。


「じゃ、じゃあ、これでやろ。……あ、ありがとうございます」

「どうしてお礼……?」


推しのアイドルとの握手会に来たファンみたいな心理になった。雪白さんのビジュがレベチだから、あながち間違いではない。


「はい、撮りますよー!」


スタッフさんの掛け声で、俺と雪白さんは空いた手でピース。俺はこれ以上ないくらい満面の笑みで、雪白さんはちょっと硬いけれど、ほのかに笑っていた。


スタッフさんはスマホを縦でも横でも撮ってくれて、俺のスマホの中に雪白さんとの想い出をしっかり残してくれた。


「後で私にも送って頂戴ね…?」

「うん、もちろん!」


この初デートが終わったら、また雪白さんとやり取りできる。……そんなことを考えて、また嬉しくなった。





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