第91話 頭が痛いですわ
マリー商会。確かにそう看板を掲げた店があります。
それも三階建ての立派な店構えです。
それも大通りに面しており、ひと目につきやすい場所でもあります。いわゆる一等地に建っているのでしょう。
リカルド様に手を取られて馬車から降りた私は、現実逃避をするように看板を見上げていました。
「ようこそ、おいでくださいました。イーリアお嬢様」
やはりこれは現実なのでしょうか。店の前にずらりとならんだ、よく知っている人たち。
「イーリアお嬢様。この度は聖女マリー様からどの様な命令が下されるのでしょうか!」
直立不動のまま、でかい声をあげる厳つい男性。この店の警備の者と言いたいところですが、似たような体格の者たちが店の前で整列しているのです。それも何故かサイズがぴったり過ぎる燕尾服を着ています。
私は頭痛がしてきて、額に手を置きました。
表に出て整列しているのは、父の元部下の人たちです。というか現役の聖騎士の人たちです。
何故、ここにいるのですか……。
「今日、来たのは個人的なことですので、お母様に何かを言われてきたのではありません」
「さようでございますか!」
……声が大きい……です。
そうして、私は頭痛がする中、店に入って行ったのでした。
「リカルド様。事前に連絡をしていたのですか?」
私はこっそりとリカルド様に尋ねます。私がアルベント伯爵領の品物を扱っている店に行きたいと言ったのは、つい先程の馬車の中のはずです。
もしかしてリカルド様とルシア様とやり取りしている不思議な能力で、誰かに商会にいくことを告げるように言ったのでしょうか。
「いいえ。馬車留めに到着して御者が足場を用意している頃には、整列していましたね」
馬車を乗り降りするには高さがあるので、踏み台を御者の方が用意してくれるのですが、馬車が止まって扉が開けられるまでそんなに時間は経っていませんでしたわよ。
そして店の中に入ったものの、領地にあるお店のように商品が店内に並んでおらず、貴族の屋敷といっても遜色ない玄関ホールを通りぬけ、日当たりがよい部屋に案内されました。
それも既視感に襲われる部屋です。
「我が家の応接室と同じに思えるのですが?」
「はい! 聖女マリー様に散々ダメ出しをされ『まぁいいわ』とやっと合格をいただけた試作品だと伺っています」
試作品ですか。母の『まぁいいわ』はその後『でもね』がついたと思います。厳密には家具の高さが違いますもの。
……私はここまで案内してくれた、男性を見上げます。一番聞きたいことを聞いていいかしら?
「確か今、聖騎士団長をしていらっしゃいませんでした? ラミュエント伯爵」
読んでいただきましてありがとうございます。
体調がすぐれないので、書く元気があれば92話を夜に投稿します。




