第88話 王都って治安が悪いのですか?
「お兄様。これ絶対にイーたん、理解していない」
突然、ルシア様が間にぴょこっと顔をのぞかせました。
私は理解していますよ。教会側が聖女としての母を誇張して、噂をしているのだろうと。
「イーたん。これからお兄様と一緒にお出かけするといい。今言ったことが、とてもわかる」
……凄く話が飛びましたね。どこから出かける話になったのですか?
それにどこに出かけるというのです。
「それはいいですね。ミランジュ通りとか如何です?」
「あの? 昨年の顔合わせのときに一度と、今回の婚約の契約のために王都に来たのが二度目ですので、場所を言われてもわからないのです」
はい。私はお嬢様と王都に来たのが初めてで、顔合わせのときは有耶無耶になってお嬢様はすぐに領地にお戻りになりました。
そして年が明けて婚約の契約のために王都に来てから、私は何故かランドルフ王子の離宮で暮らすことになってしまったのです。
ですから、王都の町を出歩くことなんて一度もありませんでした。ええ、お嬢様の買い物は、公爵邸に商人を呼びつければいいのですから。
何故か公爵様から同席するのを却下されてしまいましたが。
「それならお兄様とデートするといい。るーたんは、後ろから木のふりをしてついて行くから」
「ついてくるのでしたら、一緒に行けばいいではないですか」
ルシア様の容姿は人の目を引くほど美人です。
確かに魔道具を使えば、存在感は薄くなります。それは、容姿や衣装が目立つ貴族が行き交う王城内だからこそ、魔道具の効力が発揮しているのだと思います。
そんなルシア様が、外を怪しい格好で出歩くなんて、さらわれてしまいますわ。
「るーたんは、まだ命が惜しいから一緒はイヤ」
「どこに命を落とす要素があるのですか!」
王都の町の治安が悪すぎるということですか? でもそれなら、後ろからついてくる方が危険ですわよ。
しかし、ルシア様もレイム族としての訓練を受けているのであれば、分散して警戒にあたるとも捉えられます。
「アリアお嬢様のために、王都の町の治安状況を調べたほうが、いいのかもしれません」
これからは、王都の中を移動中に襲撃されるということも、考慮したほうがいいですわね。
「王都の治安状況を調べるために行きましょう」
「しまった。イーたんが、おかしな方向に勘違いしてしまった」
何故か慌て出すルシア様。
そして私の両手を握って、笑みを浮かべるリカルド様が言いました。
「いいですね。そのためには、可愛い格好をしなければなりませんね」
可愛い格好?
ああ! 囮役ですね! いいでしょう!
「イーたんが勘違いしていることを逆手にとるとは……流石、お兄様」
遅くなりました。
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