第83話 人外でも殴れるらしい
「自作自演よ。本当に馬鹿らしい。私の人生を返してよって、目つぶしぐらいしてもバチは当たらないわよ」
マルメイヤー公爵のことを聞きたいと言ったあとの母の第一声がこれでした。
それもとても不穏な空気をまといだしたので、ロイドは勉強をしてくると逃げてしまいました。
しかし、母の言葉だけでは全くわかりません。
「全然わからないのだけど、一から説明して欲しいです」
私は母に視線を向けずに、父に尋ねました。ええ、母と視線を合わせると硬直の魔法でもかけられそうな気がして、目を合わせたくありません。
きっと手を止めれば、そのことに怒られそうですから。
ここはダイニングです。そのダイニングテーブルの上には五つほどの籠が置いてあるのです。
その中身は硬い殻で覆われた木の実が入っていました。そして話を聞きたいと言った私は、木の実の殻を素手で壊して、殻と実とを分ける作業を手伝っています。
秋から冬にかけて行う日課の訓練のようなものですわ。
ですから、先程からバキッとかゴリっとか三人の手の中で音がしているのでした。
「マリーは空から舞い降りてきた天上人と言われているけど、本当は王弟が……ああ当時のね。聖女召喚を行ったんだよ」
ええ、母が天上人ではないことはわかりきっています。そうでなければ、神の住まう天界というところは、どれほど殺伐としているのだろうと思ってしまいますもの。
「本当! あいつドヤ顔で、『よく来てくれた。聖女』とか言ったのよ。もちろん腹パンしてやったわ」
「マリーが王弟を殴ってしまったのがきっかけで、教会預かりになったのだけどね」
王弟を殴ったと簡単に言っていますが、母が手に負えないと判断するほどの威力だったと予想できます。
そこで父は母の面倒をみることになったのでしょう。
無意識で回復魔法を使えるなんて普通はできませんもの。
「当時はね。あちらこちらで魔物の活動の活性化が起こって、国中に被害が出ていたんだよ」
ん? それぐらいで聖女召喚なんてしようと思いましたよね。有事の際に対処するために、騎士団というものがあるのではないのですか?
「それもイグネア王国のみで発生しているから、余計に原因がわからなかったのだよ」
あれ? でもこの時期ですわよね。王妃様がシュトラール帝国から兄の皇太子。今の皇帝から引き剥がすために王国に来たのは。
当時の皇帝はよく、そのようなイグネア王国に娘をいかせましたわよね。
「それでマリーと私達は、原因追求のため国中を巡ったのだよ」
「それで私は、王弟が邪神を喚び出そうとしていたのを、邪神ごとぶん殴って止めたのよ」
「お母様。邪神を殴っている時点で喚び出されていますわ」
「魔法陣から上半身しか出ていなかったから、ギリセーフよ。イーリア。手を動かしなさい」
邪神が喚び出されていた事実も驚きですが、邪神すら殴ってしまう母に思わず突っ込んでしまいました。
上半身出ている時点で、アウトではないのでしょうか?
それは殻を割る手も止まってしまうというものです。
読んでいただきましてありがとうございます。
すみません。84話は帰ってから書きます。書き上がりしだい、投稿いたします。




