第8話 婚約破棄はお勧めできません
「ねぇ、イーリア。婚約を破棄されるのはどうしたらいいの?」
十二歳になるアリアお嬢様に仕えて三ヶ月。アリアお嬢様がとんでもないことを私に聞いてきました。
「お嬢様。婚約破棄をされると、次の嫁ぎ先がなくなってしまいますよ」
この私のようにです。
「いいのよ! 私はお父様といっしょにいるんだもの!」
跡継ぎのご長男様は王都で勉学に励んでいると聞いていますから、そこに跡継ぎの兄の名が出てこないことは納得できます。しかし、何故に婚約破棄なのでしょう?
「婚約解消では駄目なのでしょうか?」
互いの家同士で話し合って、婚約解消に持っていったほうが一番問題がなくていいと思うのです。
あら?そう言えば、私はお嬢様の婚約者のことは聞いていないわ。
「アリアお嬢様。私にお嬢様の婚約者様のことをお教え願いますでしょうか?」
ここで知らないと言ってしまえば、使用人失格です。この三ヶ月間、公爵家のしきたりをを覚えるのに必死で、仕えるお嬢様の婚約者のことを聞き忘れるなど言えません。
いいえ、実はこっそり見ていました。お嬢様のステータスをです。
鑑定スキルを持っているとバレると大変な目に遭うからと母からきつく言われているので、今まで母以外には言っておりません。
ですからこっそりと見るのです。
そのお嬢様のステータスを見たときには婚約者という文字はありませんでした。だから居ないものと思っていましたのに、
これは内々で決まっているということなのでしょう。
「おバカのランドルフよ」
……おバカのランドルフ? いったい誰のことでしょう?
「馬鹿すぎて話にならないのよ」
ランドルフという名前を頭の中で検索してみますが、公爵令嬢であるお嬢様の婚約者として立てる人物は一人しか引っかかってきません。
「第一王子様ですか?」
「そうよ! おバカ過ぎて未だに、王太子に決められていないランドルフよ」
確かに今年十六歳になる第一王子殿下が普通では次の王として王太子に命じられていてもおかしくはありません。
ですが、十三歳になる第二側妃の子である第二王子を押す声もあり、未だに王太子が決められていません。
それで、後ろ盾としてアドラディオーネ公爵令嬢を婚約者としてあてがったということでしょう。
「それで二週間後に王都で会う予定になっているのよ。イーリア。婚約破棄されるのはどうすればいいのかしら?」
「その前にお嬢様は婚約されているのですか?」
「……まだよ。まだ婚約者候補よ」
「婚約していなければ、婚約破棄されませんね」
私の言葉にお嬢様は固まってしまいました。そうですよね。婚約していなければ、婚約破棄はできません。
それに王家の意図が絡んでいるのでしたら、第一王子に嫌われるしか対処のしようがありません。
そうですわね。……そう言えば母が何か言っていましたわね。
「お嬢様。悪役令嬢なる者になってみるのは如何でしょう?」