第76話 青い回復薬
「リカルド様。ただいま戻りました」
私は幽霊の王女の姿で、見張りだったと思われる人たちと追いかけっこをして、全員を古城の周りに転移をさせて戻ってきました。
適当に転移をしたので、冬の泉に落ちてしまった人もいるかもしれませんわね。
しかし一人の少年をあのような場所に閉じ込めていた人たちですもの、罰は必要ですわ。
「おつかれさまでした。イーリア。寒かったでしょう」
転移で戻ってきた私に、リカルド様は厚手の毛布をかけてくれました。
「結界を張っていたので、そうでもありませんでしたわ。それよりもオルビス君はどうしていますか?」
「聖女様特性の栄養ドリンクを飲んでもらって、寝ていますよ」
あの栄養ドリンクですか。例のカバンの中に入っていたのですか?
しかし、よく大人しく飲みましたわね。
効果は抜群なのです。それは私も認めます。
弟のロイドが高熱で寝込んだときです。母が『これを飲むと一発で治るのよ』と作ったものがありました。
それは真っ青のなんとも言えない液体でした。
それを見た父は絶叫しながら母から怪しい飲み物を取り上げようとしましたが、母の方が一枚上手で、用意していたのであろう小瓶を父の口に突っ込んだのです。
すると白目を剥いて口から青い泡を吹きながら倒れる父。
その隙に母は弟のロイドの口にスプーンで掬った青い液体を流し込んだのです。
『ぐはっ! 天国のじいちゃんが僕を呼んでいる……ぐふっ』
『脳筋の枢機卿はあと百年ぐらい死なないわよ!』
ロイドの拒否反応にツッコミつつ、追加投入する母。そして、青い泡を吐きながら意識を失うロイド。
いくら祖父でも百年は生きないでしょう。母はわかりませんが。
しかし母の謎の栄養ドリンクの効果で、翌日には弟の熱は下がっていました。
はっ! リカルド様が寝ていると言っていますが、まさか!
「オルビス君はどこに?」
「あちらの部屋ですね」
慌てて示された部屋の扉を開けると、ベッドの上で青い泡を吹いて白目を剥いている少年が横たわっていました。
これ、人間不信に拍車をかけたりしませんわよね?
「青い飲み物が存在するなんて初めて知りましたね。流石聖女マリー様です」
「リカルド様。あの液体には、猛毒の人魚の血が入っているらしいので、多用は控えた方がいいと思うのです」
人魚の肉は不老不死になると言われていますが、猛毒なので食べたら死ぬそうです。ですが、死した肉体は腐敗することも土に分解されることもないそうです。
そう、死んだ姿のまま永久的に残る死体。
それがいつしか不老不死の妙薬という噂になったそうです。
「不老不死になるのですか?」
「いいえ、母仕様なので、気絶するほど不味い回復薬です」