第73話 初耳ですわ!
「いい感じではありませんか」
食事をとったあと、昔流行したであろうドレスを着ている私を見たリカルド様の感想です。
いったいどこがなのでしょう。
確かに一人で着れました。着れましたよ。
私はスカートの長い裾を持ち上げてリカルド様の詰め寄ります。
「サイズがあっていませんが?」
急遽用意したものなので仕方がないとは思います。しかししかしですね。
普通であれば首周りが大きく開いたドレスなのでしょう。ですが、私が着ると肩の部分がずり落ちそうになるのですが?
「浮けば、幽霊っぽくなると思ったのですが駄目でしたか?」
幽霊っぽい……サイズが合っていないので全体的にダボッとした印象です。身体のラインなど皆無。
そして裾は引きずってしまう長さ。
「しかし、そうですね」
そう言ってリカルド様は、白いレースの紐を取り出して、胸元の大きなリボンに紐を通し、背後に回って調整してくれています。
……あの……服の調節できるものを事前に用意していると言ってくれれば、自分でやりましたわ。
第二皇子様がするようなことではありません。
そ……それにこれは、これで恥ずかしいですわ。
「言ってくだされば、自分で調節しましたわ!」
「すみません。今回はこのような物しか用意できなくて」
あの、謝って欲しいとかではないのです。今回のお話は今日の今日だったので、私のサイズにあった古風なドレスを用意するのは難しかったと理解しておりますわ。
だから事前に裁縫道具を渡していただければ、軽く詰めることができたという話です。
ええ、姉のお古を着るのに、サイズの調整をして着ていましたもの。因みに母は裁縫は得意ではありませんので、父に裁縫技術を教えてもらいました。
「次はイーリアに似合うドレスを作らせますね」
「あ……いいえ。そういうことではなくて……」
私はドレスが欲しいと言ったわけではありません。
するとリカルド様に両手を取られてしまいました。
「メイド服もオーダーメイドで作らせましょう。二ヶ月後に殿下の婚約発表があるので、お揃いにした方がいいですよね。その後にある建国祭に向けて青いドレスも作らせましょう。後は……」
「ちょっと待ってください。二ヶ月後に婚約発表があるとは私は聞いていませんわ。それからお揃いにする意味がありますか?」
寝耳に水。いつ、婚約発表の話が決まったのですか?
それから後ろに控える側近がペアルックって、おかしすぎません?
「その時に私達の婚約発表もするからですね」
「初耳ですわ!」




