第66話 私がイーリアを手放すはずないでしょう
「ワイバーンは騎獣にできるのですか?」
「そうですね。レイム族も普通の騎獣から嫌われていますし、傭兵の依頼主の元に駆けつけるには重宝するのですよ」
同じにされてしまいました。しかし、レイム族が騎獣に嫌われているとは、それは竜人族の血が入っているから、ということでしょうか。
ということは、母は竜人族の流れをくむレイム族に匹敵すると……そんな馬鹿なことはありませんわよね。
「そうですか。ワイバーンであれば追跡できるでしょう」
空を飛ぶ物同士、地上の障害物を気にしなくていいから、最適でしょう。
「しかし、私は騎獣になど……ワイバーンになど乗ったことはありません。空から落ちるのは嫌ですわ」
父が浮遊の術で騒ぎ立てるほどですからね。上空からの落下は勘弁です。
するとリカルド様から両手を取られ握られてしまいました。
「何を言っているのです。私がイーリアを手放すはずないでしょう」
「あ……はい」
何か違う意味が込められていませんか?
「イーたん。ラブラブ」
「うむ。リカルドには、やはりイーリアを側に付けさせて正解だったな」
「馬鹿王子。私はアリアお嬢様の侍女です。そこをお忘れなきよう」
私はランドルフ王子の言葉を訂正します。
そうです。この問題をさっさと解決させて私はアリアお嬢様の侍女に戻るのです。
そうすれば、お嬢様が安全に王城で王子妃教育でも、馬鹿王子の剣術の見学でも好きなように過ごすことができるのです。
「その前にイーリアは私の婚約者ですよ」
「……ハイ、ソウデスネ」
リカルド様の言葉に否定する要素はありません。が! ただの馬鹿王子の側近の伯爵であれば、アルベント伯爵令嬢として受け入れたでしょう。
しかし相手は帝国の第二皇子。
素直に受け入れるにはハードルが高すぎます。だって私はただの伯爵令嬢にすぎないのですから。
「こっちは話がまとまりましたので、報告をしなさい。ルシア」
「はい。お兄様」
え? どこが話がまとまったのですか? 最後にリカルド様の婚約者だと確認されて終わったのですよ?
「イーたんが紙を挟んで色々書いていたのをまとめた。るーたん、頑張った」
「流石、ルシアだ。偉いぞ」
「えっへん!」
たぶんリカルド様は内容の報告を聞きたかったのだと思います。それでは作業内容の報告です。
しかしランドルフ王子は作業内容報告をしたルシア様の頭を撫でて褒めています。
確かにバラバラになっているものを一枚の紙にまとめる作業は大変ですが……いいえ、13歳のルシア皇女様がするようなことではないので、盛大に褒めるところなのでしょう。
「イーリア。もしかして明け方に戻ってから、中身の確認をしていたのですか?」
リカルド様。その前に私が明け方に戻って来たことを、なぜ知っているのですか?