第63話 恋に時間など関係ないのですよ
「そうですね。やはり鍵は乳母のエリアーナですね。なにか弱みでもあれば、脅して話してもらえる可能性があります」
リカルド様が笑っていない笑顔を浮かべて、非道なことを言っています。
脅して話してもらうなんて……脅す? 弱み? そして乳母エリアーナの容姿。
「あの……乳母ということは、子供がいるはずですよね? どこにいるのでしょうか?」
第二王子に母乳を与え、身の回りの世話をする役目が乳母エリアーナに課せられたはずです。
「それに乳母エリアーナはマルメイヤー公爵家の縁者ですよね? 簡単に話してもらえるとは思えません」
そう、私が遠目でみたエリアーナ・ラヴァルは第二側妃のカトリーヌ妃にどことなく似ているのです。
おそらく似てる者をわざわざ乳母にした可能性があります。ということは……いいえ。これ以上は私が考えることではありません。
「調べてみたところ、エリアーナ・ラヴァルは旅の吟遊詩人の子を身ごもったと言っていたらしいのです。それにより、婚約が破棄され、マルメイヤー公爵家に乳母として雇われたとありますね」
旅の吟遊詩人? そんな者が世の中に、いるのですか?
それに何故、伯爵令嬢が身ごもる事態に発展するのですか?
「ちょっと意味がわからないのですが、旅の吟遊詩人が貴族の令嬢と会うことなんてあるのですか?」
吟遊詩人というのは一般庶民より地位が低いですわよね? 定住しない者であり、町に住む権利がない者。
それが何故、貴族の令嬢と会う機会があって、子作りすることに発展するのです。
「貴族というのは噂好きですからね。旅で得てきた情報を得ようと屋敷に呼ぶことがあり、数日間の滞在を許すことがあります」
「はぁ、そんなことがあるのですね?」
私には考えもつかないことです。家にそんな者が来ようものなら、無駄口を叩かないで魔物の一匹でも倒して来なさいと、母から剣でも渡されそうですわね。
「で? 何故妊娠することに? そこが全くわかりません」
すると二人からなんとも言えない視線を向けられてきました。
「イーリアはお子様だからな。まだ早い……」
私の頭を撫ぜようとする馬鹿王子の右手を払い、横腹に拳を繰り出します。
「私は十六だと何度言えばいいのですか!」
「良いパンチだ……ぐふっ」
倒れてく馬鹿王子を見ていると、身体をぐるりと回転させられてしまいました。そして青い目が私を見下ろしてきます。
「恋というものに、時間など関係ないのですよ」
あ……はい。何か、わかったような気がします。