第61話 別に凄くないですよ
「母上に報告したところ困ったと言われてしまった」
夕刻、実家からランドルフ王子の執務室に戻って来ました。
あの後、色々ありまして父の悲鳴が絶え間なく、母が途中でうるさいと父を殴って昏倒させ、実演販売とか母が言い出し、父に魔導生物を使いだしたのです。
「あれは良いのですか?」
白目を剥いたまま痙攣をしだした父を見て、心配の言葉を口にするサフィーロ伯爵。
「父は元聖騎士なので、毒とか麻痺とかには耐性がありますし、見てくださいよ。常時自分で回復しているではないですか」
私は痙攣しながらも無意識下で治癒魔法をかけている父を指します。
「元聖騎士なのですか?」
「ええ、母につけられていた聖騎士です」
そして、そのまま母を押し付けられたのだと私は思っています。
「母親が聖女で、父親が聖騎士なんてすごいですね」
「え? 別に凄くないですよ。普通の家庭よね? ロイド」
「はい! お姉様! グランデベアーを倒せない奴はクソ以下だと言われて、森に放り出されるのは、いつものことです」
「あら? 秋のはちみつの収穫は私が行ったじゃない?」
「森の中にある泉にいる魚が食べたいと言われました」
ああ、母は紅魚をサーモンだと言って好んで食べていますからね。冬の泉に釣りに行ったのでしょう。
「それ普通ではないですよ」
「え?」
「そうなのですか?」
サフィーロ伯爵の言葉に、弟と私の声が重なります。
「普通の大人でも五人がかりで倒す魔獣ですよ」
「……」
「……」
その言葉に私と弟は顔を見合わせます。
え? あんな熊を五人でないと仕留められないってどういうことなのかという疑問です。
「あら? 帝国では知らないけど、ここではでかい熊ぐらい倒せないと生きていけないわよ。だって、魔の森の管理を任されているのですからね」
実演販売というものが終わったのでしょうか、母がこちらに向って言ってきました。はい、このアルベント伯爵領は魔の森の管理を任されているので、定期的に森の魔物の間引きをしなければならないのです。
母曰くグランデベアーを倒せない子はうちのコではありません。だそうです。
ですから、勿論姉もそれぐらい倒せます。
今は結婚して別の領地に行ってしまいましたが。
そして、母が実演販売した全ての魔導生物をサフィーロ伯爵は購入したのでした。
それどう見ても危険物ですからね。取扱には注意してくださいね。
ということで、ランドルフ王子の執務室に戻ってきたのでした。
「全て私に一任すると言われたのだ」
それ、王妃様が事態のややこしさに面倒になってバカ王子に振っただけではないのですか?




