第59話 その野心とはなにか
「それで、貴方はイーリアを利用しようとしているのかしら? もしそうなら、捻り潰してあげるわよ」
戻ってきた父にも自己紹介したサフィーロ伯爵と共に昼食をいただこうとしたところで、母が和やかな雰囲気をぶち壊す言葉を口にしたのでした。
「マリー。それは帝国の使いの人に聞いて納得したよね?」
父があわあわと母を諌めます。帝国の使いの方が、わざわざ隣国の辺鄙な伯爵家に来たのですか。
まぁ、確かに父と母に了承を得ていると言っていましたので、誰かが説明をしに来たとは思っていました。私はてっきりイグネア王国の者がきたと、勘違いしていましたわ。
「ええ、その時はあの無礼な皇帝も立場をわきまえることを覚えたのねと思ったのだけど」
「ひっ! マリー!」
皇帝に対しても母は容赦なく言っていますが、母はいったい皇帝にどれ程のことをしたのでしょうか?
「本人に会って、その認識は変わったわ。その野心に満ちた目は個人的には好ましいけど、娘のイーリアを巻き込む魂胆なら、この婚約は私が強引に破談させるわ」
「マリー!」
「お母様! 安心してください。お姉様は僕が養いますので!」
……サフィーロ伯爵が野心に満ちた目をしている? どこがですか? 私は隣をちらりと見上げます。
青い瞳と目が合ってしまいました。
まぁ、誰の味方かはわからないところがありますので、なんともいえませんが、サフィーロ伯爵の野心とは想像がつきませんね。
「滅相もございません。イーリア嬢に会った瞬間に、魅せられたのです。主に悟らせず、完璧に気配を断つ使用人など滅多におりません」
はぁ、やはり私が気配を絶っていたことが、サフィーロ伯爵にとって違和感として映ってしまったのでしょう。
スペックが高すぎるが故に、違和感が目に入ってしまう。そういうことを私が考慮できなかっただけですわ。
「そして、なんとも言えない可愛らしさ。今まで母や妹がモノに執着している意味が全く理解できませんでしたが、イーリア嬢に会ってその考えが変わりました。イーリアを幸せにするのであれば、私にもそれなりの立場が必要でしょうと」
「うぇ?」
何かとんでもない言葉が聞こえてきましたわよ?
「そう。それで貴方のその野心は何かしら?」
「ドラギニアの悲願ですね。最初は母の言葉に乗り気ではなかったのですが、その考えは変わりました」
ドラギニアの悲願? ドラギニアとは名前のことですわよね? 他に意味があるのかしら?
「ああ、あの猫妃ね。一度会ったけど、彼女も曲者ね。まぁそうね。イーリアはそれを納得するかしら?」
母はそう言って私を見てきました。猫妃って一般的に呼ばれている名でしたの?
しかし今のやり取りだけで、母は何のことを言っているのか理解したようです。
いいえ、母の隣の父が頭を抱えているので、父も内容を理解しているのでしょう。
え? わかっていないのは私だけですか?
「お母様。何が私が納得しないのでしょう?」
するとお母様から大きなため息が出されました。私、おかしなことを聞きましたか?
「面倒な者に気に入られてしまったということよ。猫妃の宮は、猫だらけだと噂で聞くもの」
……ルシア様の部屋の現状を見た時点で、ヤバいなということはヒシヒシと感じていますよ。
だって普通はランドルフ王子について行く人が、なぜ私の家にいるのですか!
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