第55話 報告すれば帰っていいですか?
アリアお嬢様は、あのあと直ぐにアドラディオーネ公爵邸に帰ってしまわれました。
『イーリアならランドルフ王子の側にいても大丈夫そうね』
と謎の言葉を残して帰ってしまわれたのです。
全く大丈夫ではありません。私も同じ馬車に乗せて連れて帰ってください。アリアお嬢様。
「イーリア。助かったぞ」
私はサフィーロ伯爵に捕獲されたまま、ランドルフ王子の執務室に戻ってきました。
ええ、お嬢様と一緒に戻りたいと言ったものの、許可は降りなかったのです。
そしてサフィーロ伯爵の膝の上から降りることも却下されたのです。
「まぁ? ランドルフ王子でしたら、アレぐらい華麗に避けられたでしょうけど、私が手を出すことではありませんでしたわよね?」
私は厭味ったらしく言い返します。
もう、ヤバいことに足を突っ込みすぎて、さっさとアドラディオーネ公爵邸に戻りたいですわ。
「いや、今回の矢には隠蔽の術がかけられていたため、直撃するまで認識はできなかっただろう。矢に突き刺さって、初めて矢を認識できるようにだ」
そうなると、どうして自動防御が展開したのでしょう。人は認識できなくても、魔力的な残滓は残っているということでしょうか?
「そうですか。お役に立てたようで、恐縮です。もう、私はお嬢様の元に帰っても宜しいでしょうか?」
「報告がまだだろう?」
「報告すれば、帰っていいですよね?」
「内容次第でしょうか?」
あ……なんだか無理なような気がしてきましたわ。私の知り得た情報は外部に漏らすととてもヤバいことだからです。
そのまま王城に引き止められる可能性が出てきました。
「お母様と要相談でお願いします」
「いいですね。その時は私も一緒に参りましょう。義父上と義母上に挨拶しなければなりませんからね」
もう、私には母しか頼るところがありません。帝国の皇子や馬鹿王子だけでも無理ですのに、第二側妃様の件までなんて、ただの伯爵令嬢には荷が重すぎます。
「それでは報告してもらおうか」
「はい。乳母のエリアーナ・ラヴァル伯爵令嬢は、生きています。最初からカトリーヌ・マルメイヤーとして国王陛下の妃として嫁いできていたようです」
「は?」
「あの金髪女王は偽物だった」
「ルシア。報告としてはカトリーヌ妃とアルフレッド殿下は仲がいいということではなかったのですか?」
あの……ルシア様。金髪女王とはどういうことなのでしょうか? それは第二側妃様のことをおっしゃっていますよね?