第54話 私は何も気付いていませんわ
地面に倒れていくランドルフ王子に視線を向けていますと、突然私の目の前に半透明の盾が出現しました。
そして、その盾に弾かれる矢。
……え? 何が起こったの?
背後に引き寄せられる感覚と同時に周りが騒がしく動きだします。
「襲撃です! 殿下を屋内に!」
襲撃! アリアお嬢様は!
お嬢様がいた方向に視線を向けますと、既に護衛に抱えられて、訓練場を去っていこうとしているところでした。
これは矢を確認した時点で、護衛の者がお嬢様の安全確保のために動いたということでしょう。
反応の良さから、この異常事態に慣れていることがみてとれます。
「イーリア。怪我は?」
そして私はサフィーロ伯爵に抱えられていました。
「あ……いいえ。自動展開する盾に阻まれたので、怪我はありません」
「良かったです」
サフィーロ伯爵は私の盾が弾いた矢を地面から拾い上げました。そして、その矢を飛んできた方向に投げ放ちます。
いやいや、矢を人の手で投げたからといっても、直ぐに地面に落ちて……飛んでいく矢は、尋常でない風を切る甲高い音を出して遠ざかっています。
そして私の目では捕捉できなくなりました。
「膝を粉砕したので動けないでしょう。捕らえなさい」
残っていたランドルフ王子の護衛に命じるサフィーロ伯爵。
え? どこに敵がいたのですか? それも私には見えない距離ですのに、膝をピンポイントで狙うだなんてありえなくないですか?
いいえ。サフィーロ伯爵のステータスの高さからいけば、それぐらい普通なのかもしれません。
「あの距離で敵の存在に気づくなんて、流石イーリアですね」
「はい?」
……あの? 何のことを言っているのですか? 私は敵になんて全く気がついていませんでしたわよ。
「しかし殿下を地面に伏せさせて、盾で受け止めるなんてイーリアがすることではないですよ。次からはその辺りに突っ立っている役立たずの護衛を盾にしてくださいね」
……確かに私の正面に盾が展開したので、ランドルフ王子があのまま立っていると、心臓に矢が突き刺さっていたことでしょう。
しかし! 私は全く気がついていませんでしたよ! ただ単にランドルフ王子にイラッとしただけですわ。
あと、護衛を盾にすれば、その護衛は死んでいたと思いますわよ。地面を見るとどす黒い液体の痕跡がありますから……あれ? 捕まえるように言った犯人もやばくないですか?
「私にはイーリアより大事な人はいないのですから」
「そこはランドルフ王子と言ってください。サフィーロはく……」
「リカルドだと何度言えばいいのですかね?」
綺麗な笑みを浮かべて、名前呼びを強要しないでください。リカルド様。




