第52話 ロイドとは誰ですか?
ああ、そろそろ起きないと……
冷たい朝の空気に布団を深く被って、寝返りをうつ。寒いと起きるのが億劫になります。
しかしふかふかのベッドが私を引き止めるのです。
ん? 温かい。
温かいものにくっつく。
これは……寒いからと言ってまた私のベッドに潜り込んできましたね。
「ロイド。またお姉様のベッドに潜り込んできたのです……か……」
ちょっと待ってください。私は実家を出たはず。ここにロイドがいるわけないじゃない!
硬い使用人のベッドと違って、ふかふかすぎて、寝ぼけてしまっていました。
目をパチリと開けます。
青い目の視線が合いました。
「ロイドとは誰ですか?」
「何故ここにいるのですか!」
私はガバっと飛び起きました。
私のベッドにメガネなしのサフィーロ伯爵が何故いるのですか!
「不法侵入です! 私は扉に鍵をかけたはずです!」
「ロイドとは誰ですか?」
「何故ここにいるのですか!」
「それはルシアがイーリアは天使だったと報告してきましてね、心配になってマスターキーで確認しにきたのです」
何が心配になったのです。マスターキーで何故入ってくるのです。
「それでロイドとは?」
「弟ですわ! 何を確認しにきたのかわかりませんが! 出ていってください!」
「天使かどうかですね」
ルシア様! どういう報告をしたのですか! どうみても私は人ではないですか!
「私がただの人だとわかったら、さっさと出ていってください。あっ!」
私はふと重大なことをきいていなかったことを思い出しました。
「アリアお嬢様は、いつこちらにおいでになるのですか?」
お嬢様がこられる前に、面倒なことは終わらせておかないといけません。
「もう来られていますよ?」
「はい?」
外を見ますと太陽があんなに高く!
朝と思っていたら、もうお昼ではないですか!
こ……ここここれはお嬢様の侍女としてありえない失態です!
「どうして、起こしてくれなかったのですか!」
私はサフィーロ伯爵に詰め寄ります。
昨日はサフィーロ伯爵に振り回されて確認するのを怠った私も悪いのですが、朝に起きて来なかったなら、起こしてくださいよ!
「アドラディオーネ公爵令嬢が来られたので、ルシアに行かせたら返事がなかったと戻ってきたのです」
……おかしいですわ。扉をノックされたら音で気が付きそうなものですのに。
「それにアドラディオーネ公爵令嬢様が『お父様がマリー様は突然姿を消すことがあるので、そのうち顔を見せるでしょ』と言っておりましたよ」
「アリアお嬢様の口真似をしなくて結構ですわ」
「るーたん。後輩の寝坊を許すいい先輩!」
そう言って、寝息が扉の向こうから聞こえる部屋を離れるルシアだった。




