第5話 婚約者との間に子供が!
ことの始まりは私が十六歳のときです。
「実は子供ができたんだ」
一瞬何を言われているか分からず固まってしまいました。
私の目の前にいる方はレイモンド・ハイバザール。ハイバザール侯爵家の嫡男であり、私の婚約者です。
「誰のと、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
年の離れた弟か妹ができたという話かもしれないと、一応聞いておきます。
「俺とカトリーヌとの子だ」
カトリーヌ? カトリーヌとは誰ですか!
カトリーヌという名を頭の中で検索していきますと、思い当たる人物が一人います。
姉と交友があるカトリーヌ・コートドラン子爵令嬢です。
何度か屋敷に来ているのを見かけたことはあります。とてもお胸がふくよかな令嬢です。
私と違って……。
しかし、カトリーヌ子爵令嬢はあちらこちらで高位の爵位の御子息に声をかけまわっていると有名です。
姉曰く、金持ちの貴族と婚姻するのが夢だそうで、姉は婚約者がいない方にするように言ったそうです。
が! 思いっきりレイモンドの婚約者は私ですけど!
「レイモンド様。それでカトリーヌ様を愛人にしたいというお話でしょうか?」
貴族となれば愛人を囲うことは一般的で、愛人のために別宅を建てる方もいらっしゃいます。
「何を言っているんだ? カトリーヌを愛人になどするわけないだろう!」
「それでは第二夫人でしょうか?」
貴族の婚姻は家の婚姻と言い換えてもいいほどです。それにより、互いにメリットを引き出し、繋がりを強固にするという意味合いがあります。
ですから、コートドラン子爵家がどのような提案をハイバザール侯爵家にだしてきたのかは知りませんが、それなりに有意義な交渉ができたということなのでしょう。
「何を言っている。イーリア。君との婚約を解消するという話をするためにきてもらったのだ」
「え? 婚約の解消ですか? それは違約金として、それなりのお金をハイバザール侯爵家が支払ってくれるということですよね?」
私の家であるアルベント伯爵家はハイバザール侯爵家と婚姻関係を結ぶということでかなりの金額を出資しているのです。
その要となる婚姻を解消となると、今まで出資した金額と違約金をハイバザール侯爵家が支払うということになります。
「あ? なんで払う必要がある。イーリア。全ては君が悪いんだ」
「何を言っているのです? レイモンド様が浮気をして他の女との間に子供を作ったのだから、愛人か第二夫人かの提示をしたのではないですか」
ハイバザール侯爵家が支払う能力がないことは、重々承知しています。
婚姻前ですが、私はハイバザール侯爵家の財政を握っており領地で改革に勤しんでいたのです。
それなのに、王都に呼び出されて婚約解消を言い渡されて、今までの出資金を返金しないなど、詐欺同然です。
「君の寸胴の身体が悪い」
その言葉に思わず手が出てしまいました。出してしまったのです。
「ヘギョッ!」
ソファーごと後ろにひっくり返るレイモンド。慌ててよってくる使用人たち。そして、レイモンドの護衛に取り押さえられる私。
身分が高い者に手を出した非は認めます。しかし、その前のレイモンドの所業を考慮して欲しいです。
私の訴えはハイバザール侯爵には理解されず、婚約破棄を突きつけられ、私は暴力令嬢というレッテルを貼られてしまったのでした。