第47話 天上人設定を私に使わないでください
「るーたん。今日は怒られなかった。えっへん」
ランドルフ王子の離宮に戻って、王子の私室に入ったところで、ルシア様が両手を腰に当てて自慢気に言われました。
「それは偉いですね。ルシア」
そんなルシア様の頭をイイコイイコするように撫ぜるサフィーロ伯爵。……私を抱えたままですが?
私はいつ床に下ろしてもらえるのでしょうか?
「お茶の用意はできてる。お茶菓子ももらってきた」
「それ、駄目でしょう」
私は思わず突っ込んでしまった。
お茶の用意ができていると言われたローテーブルの側では、ランドルフ王子がポットからティーカップに紅茶を注いでいるではないですか。
いいえ、ルシア様も皇女様なので、身分的には使用人をするような立場ではありません。ですから、ランドルフ王子がお茶を淹れても……なんだか違うような気がします。
ここは本当の使用人を置くべきではないのでしょうか?
「それでは報告してもらおうか」
ご自分で淹れたお茶の飲みながら、ランドルフ殿下は私に言ってきました。ですがその前に……。
「いい加減に私を解放していただけませんか?」
「気配を消すと認識するのも難しくなってしまいますので、心配になるではないですか」
「……気配を消す必要がないのに、そのようなことはしません」
愚か者のところに侵入するときには必須よと母に教えられたものですが、必要がなければ気配など消しません。
気配を消してまで母は何をしたのかは知りませんが、父が小さく悲鳴を上げていたので、よっぽどのことがあったのでしょう。
「聖女マリー殿は天上人だからな。娘のイーリアが天に還ってしまわないのかリカルドも心配なのだろう」
あの……その天上人設定は教会が作ったそうなので、母自身は異世界から来たと言っていましたわよ。
教会に逆らうと厄介ですので、訂正はしませんが、私は天になど行ったりはしません。
「別に今のままでも報告はできるだろう? ということで、乳母の手記は見つかったのか?」
強引に話を進めようとしてきましたわね。この馬鹿王子。誰が王族の向かい側で側近に抱えられたまま報告する者がいるというのですか。
しかし、サフィーロ伯爵は私を解放する気がないようですし、ルシア様はご自分の分のプチケーキをさっさと取り分けていますし……あの? まだ昼前ですのに、そんなに食べて大丈夫なのですか?
「イーリア。頑張ったご褒美のケーキは、後で私が食べさせてあげますよ」
「ケーキが欲しくてルシア様を見て……ルシア先輩を見ていたわけではありません」
ルシア様。ケーキを頬張りながら、無言で先輩呼びを強要してこないでください。
「ルシア様に質問があるのですが、アルマ様とはどのような方なのでしょう?」
「意地悪侍女長」
すごく端的に答えられてしまいました。




