第46話 雪降る庭園の中で
「早かったですね?」
サフィーロ伯爵と別れたところまで戻ってきましたら、雪が積もったサフィーロ伯爵が待っているではないですか!
「戻ってくださいと言いましたよね?」
思わず腕を引っ張って、屋根がある場所まで行きます。
「このようなところに居続ければ、怪しまれるだけではないですか!」
王城の使用人の出入り口まで戻ってきたところで、サフィーロ伯爵の肩に積もった雪を手を伸ばして払います。
「ええ、だから離れた庭園内にいたではありませんか」
「季節を考えてください。誰が真冬の庭園に長時間立っているのですか!」
「これぐらい。殿下の訓練に付き合っているといつものことですよ」
……それは剣の訓練ということですか。そう言えば第二王子も剣の師に褒められたとか言っていましたね。
「それとこれとは別の話ですよね?」
「イーリアを一人行かせた私としては、待つしかないと心苦しいものがあったのです」
そう言ってサフィーロ伯爵は、私の頭の上に積もった雪を払ってくれました。
なんだかむず痒い感じがします。あのレイモンドでしたら、どこぞかの令嬢と共にさっさと室内に入って、暖を取っていることでしょうから。
慣れない感じに戸惑っていますと、身体が浮き上がりました。
「うひゃ!」
突然のことで変な声が出てしまったではないですか! 何故に私はサフィーロ伯爵に抱きかかえられているのです!
「なにを……」
「雪を払ってもらいますか?」
ああ、頭上の雪ね。
私はサフィーロ伯爵の銀髪に積もった雪を払いました。これでいいですわよね。
「払ったので下ろしてください」
「このまま殿下のところに向かいましょう」
「歩きますから、下ろしてください」
「ルシアも戻っていますから、温かいお茶の準備をしてもらっておきましょう」
ん? おかしな言い方をされましたわ。
そう言えば、ランドルフ王子も言っていましたよね。
「何か連絡手段があるのですか?」
「ええ、種族同士で使える念話ですね」
レイム族同士で使える念話ですか。それは便利そうですね。
だから、13歳のルシア様を一人で第二側妃様の離宮に向かわせても、対処できるということだったのですね。いざとなれば、相談できる手段を持っているのですから。
ルシア様が戻っているのであれば、リーネリア離宮の状況を確認できますわ。
「あの……いい加減に下ろしていただけません?」
サクサクと王城内を進むサフィーロ伯爵を睨みつけながら言います。使用人が通る通路を通っているとはいえ、ランドルフ王子の側近が誰かを抱えている状況はないでしょう!
「頑張ったイーリアへのねぎらいですよ」
「それなら普通にしてください」
結局、私はランドルフ王子の離宮までサフィーロ伯爵に抱えられたままでした。




