第45話 第二側妃の秘密
私は扉の隙間から、そのまま出ていこうとして、あることに気が付きました。
「母上。今日は剣の師に褒められたのです」
金髪の少年が長椅子に腰掛けて、正面に座る女性に楽しそうに報告しています。後ろ姿しかわかりませんが、私の目にはアルフレッドの名が見えます。
そして続く家名がマルメイヤーとなっています。
アルフレッド・マルメイヤー。
それが一般的に第二王子と言われている者の素性を示しています。
マルメイヤー公爵家の血筋の者だと。
ええ、第二側妃様であるカトリーヌ様はマルメイヤー公爵家のご令嬢でしたので、そこには問題はありません。
父親の名よりもマルメイヤー公爵家の家名が優先されたのだろうと思うことにします。
ただ、第二王子が母と呼んだ女性です。私からは逆光になっており、その姿は金髪ぐらいしか確認できません。
ですが私の鑑定スキルが全てを否定していました。
彼女の名はエリアーナ・ラヴァル。乳母という立場であり伯爵令嬢という立場である女性がここに存在しているのです。
手記とかいう問題ではなくなっています。
一番の問題は第二王子がその乳母を母と呼んでいることです。これはとてもヤバい案件に首を突っ込んでしまいました。
第二王子は声から察するに母親に褒めてもらいたい子供のように楽しそうに話しています。
そして背後に控えている使用人たちも、微笑ましげに母と子の姿を見守っているのです。
これは誰も第二側妃を偽物だと思っていないという感じでした。
しかし、この離宮の雰囲気から第二側妃が偽物だと知っている者はいるようです。使用人に無駄口を叩かずに、やるべき職務を全うするように監視している者がです。
……あっ! 先程、名が出てきた。『アルマ様』という者が怪しいですね。
もうすぐ戻ってくると言っていましたから、長居は無用です。
私は魔法で出した蝶がどこに行ったのか確認します。もし、この部屋に入って消えていればいいのですが、そうでなければ私の痕跡を残すことになりますからね。
視線を巡らすと……壁に止まっている?
何故に模様のように壁に止まっているのでしょう。
スススっと素早く移動して黒い蝶が止まっている壁のところに来ました。
鑑定で見ると奥に何か空間があるようです。
しかし、この場で怪しい隠し部屋に入ることは危険ですので、壁に止まった黒い蝶を握り潰して、私の魔法の痕跡を消し、リーネリア離宮を後にしたのでした。
 




