第44話 お腹の調子が……
第二側妃様の離宮の内部は異様なほど物静かです。ランドルフ王子の離宮のように人の気配が少ないというわけではありません。
仕える人はアドラディオーネ公爵の御屋敷並みにいます。なんと言いますか、無駄口を叩かず黙々と仕事をしていると言えば聞こえがいいです。
しかし、雰囲気から行けば何かに抑圧されている息苦しさを感じるのです。
普通の御屋敷と違い、離宮という建物の構造が私にはわからず、どこに第二側妃様の私室があるのか。書斎があるのか。
一階を一通り歩きました。どうも三階建の構造であり、地下まであることが把握できましたが、第二側妃様の部屋はどこなのですか?
「マリン。どこに行っていたの。早くリンネ室に戻って。アルマ様があと一時間ほどでお戻りになってしまうわ」
背後から声をかけられてしまいました! マリンって誰ですの!
「ご……ごめんなさい。お腹の調子が……」
近くにトイレがあるのを発見して思わず言ってしまいました。
「そ……そうなの……なるべく早く戻ってくるのよ」
言ってしまった手前、取り敢えずトイレに篭りましょう。
トイレに篭り、魔力を紡ぎます。
やはりこういう慣れないことは、ボロが出る前に終わらせるに限ります。
「『世はぬばたまの闇の儲け、天の聞くこと雷の如し、地を見ること稲光の如し、闇を灯火で失せ物を示せ』」
これ。私自身は何のことを言っているのかさっぱりわかりません。
母曰く『天は人の所行をすべて知っているのよ。その善悪によって応報が下されるものよ。悪いことはできないわね』だそうです。
それを聞いたとき、物探しと言うより天罰の術ではないのかと思ったのです。
『あら? どんな悪行にも証拠は必要でしょう?』と言われれば、そうかと納得したものでした。
そして私は手から出てきた淡い光をまとった黒い蝶を追いかけていきます。これは距離によって出てくる生物が違います。
今回は蝶なので距離は近いということです。
母は渡り鳥が出てきたら絶望ねと笑っていました。
黒い蝶を追いかけて行きますと、一階の両開きの扉に吸い込まれていきました。中には数人の気配がします。私は気配を押し殺して、その扉を開きました。
さっきのことで魔道具はきちんと起動しているのは確認ができましたが、人の目に留まらないほうが良いに決まっていますからね。
中に入ると、そこはサロンでした。広い部屋に外から光を多く取り込めるように、大きな窓が目に飛び込んできます。
そして使用人たちは壁際に控えており、高貴な方がここにいることを示していました。
え? ちょっと待ってください。私が欲しいのは手記であって、サロンにいる人に会いたいわけではありませんのよ!
この魔法なにか間違っていますわ!