第43話 え?馬鹿王子に見えていた?
「此処から見える建物がリーネリア離宮となっております。私がこれ以上は侵入するのは問題がありますので、こちらで待っていますね?」
春になればバラが咲き誇っているであろう庭園の奥に垣間みえる建物を指しながら、サフィーロ伯爵が教えてくれました。
第一王子の側近が、この辺りをウロウロしていることを目撃されてしまうと、貴族の方々は色々な憶測を噂にしてしまい、それがあたかも本当のように話されてしまうのです。
そう、あのレイモンドのように、己の保身のために私が悪いと言い広めるのです。
しかし全く同じ黒縁メガネでなくてもよかったのではないのでしょうか? 黒縁メガネが並んで歩いていると、逆に不信感が増すと思うのです。
「わかりました。あと、私にはわかりませんが、これは本当に別人に見えるようになっているのですよね?」
ただの黒縁メガネだったとか言わないでくださいね。私には何も変化しているようには見えないのですから。
「ええ。周りの様子から、イーリアはランドルフ殿下に見えていたと思いますよ」
「うぇ?」
確かにサフィーロ伯爵と誰かが王城の近くを歩いているとなれば、ランドルフ王子に見られていてもおかしくはありません。
ならば、余計にここに留まるわけにはいきません。
私はスッと気配を消します。
「ここで待つ必要はありません。案内していただけただけで十分です。それでは……」
私は地面を蹴って庭園の奥に見える建物に向かって行ったのでした。
*
「気配を消されると姿を認識するのも難しくなりますね。流石天界から降りてきた聖女の御息女ということですか」
サフィーロ伯爵は目を細めて、メイド服を身にまとった黒髪の少女の後ろ姿を見送っていた。
「皇帝陛下の思惑は予想できますが、駄目ですよ。私の婚約者なのですからね」
そう言いながら、指で掴んだ青い石を空に向けて掲げ上げる。
「精神操作の魔石。エルフェリッド」
それは少し前にイーリアの指にあった指輪に付けられていた青い宝石だった。
「こういう手を使ってくるとは、我々レイム族を勘違いしておられる。母も猫を被るのが上手いですからね。このまま勘違いしていただけると有り難いものです」
サフィーロ伯爵は意味深な言葉をつぶやきながら、青い宝石を指の力だけで粉砕した。
「冷えると思えば雪が降ってきましたね。さてイーリアには何の宝石が似合いますでしょうか?」
雪が振り始めた空は、黒い雲に覆われており、この先の未来の不穏を現しているようだった。