第4話 王子への報告
とある屋敷の一室。遠くで盛り上がるような声を聞きながら私は薄暗い書斎で、部屋の中を物色をしています。
「くっ。大雑把。ある意味証拠がわからない」
私が探しているのは汚職の証拠です。
血筋だけがよく、実力が伴っていないもかかわらず役職につけるのは、それなりの理由がある。
その証拠を私は探しているのですが、かなりズボラな性格らしく、一つのところにまとめて置いてあるわけでもなく、隠しているわけでもない。
その辺りに点在してあるのです。
これはある意味、調査員泣かせ。
「ああ! 面倒です」
魔力の痕跡を残すのは避けたかったですが、こんなところで時間をかけるのは得策ではありません。
「『世はぬばたまの闇の儲け、天の聞くこと雷の如し、地を見ること稲光の如し、闇を灯火で失せ物を示せ』」
目的の物を探すために術を使います。すると部屋のあちらこちらに光が放たれました。
その光の元に行き、さっと回収します。
そして、私はこの場を後にしました。
酔っ払い共に絡まれたくありませんからね。
「これでよろしいでしょうか?」
私は銀のトレイの上に載せた物を差し出します。
「流石イーリアだ。あとはこちらで対処しよう」
ランドルフ王太子殿下は笑顔で私が差し出したものを受け取りました。
長椅子にリラックスした感じで座っている王太子殿下の背後にはリカルドが控えています。
「それでは御前を失礼いたします」
私は頭を下げて、さっさとこの場を去るように退出の言葉をいいました。
「ちょっと待て」
しかし、その私の行動をランドルフ王太子殿下が止めます。
……今度は何ですか? くだらないことなら、無視して出ていきますよ。
「ラディンヴァル侯爵の頭はヅラなのか凄く気になるのだが」
……それ、別にどうでもいいことですよね?
「ちょっと調べてきてくれないか?」
「お断りします」
私はきっぱりと言い切ります。私の仕える方は王太子殿下ではありませんから、そんなことまでは調べません。
「ランドルフ殿下。気になるでしたら、むしり取ってみればよろしいのでは?」
「リカルド! それはいい!」
リカルド様! 側仕えなら、そこは王太子殿下の考えを諌めるところです。何故に毎回、ことを大きくするようなことを勧めるのですか!
「失礼ながら、カツラはファッションです。カツラを人前で取られるというのは、着飾っている衣服を脱がされるようなもの。いくら気になっても素知らぬフリをしてさしあげるべきです」
「えー? ズレていても?」
「はい」
「浮いていても?」
「はい」
「風で飛んできた場合はどうすればいいんだ?」
それを私が答えるのですか?私は殿下の側仕えではありませんよ。
私は王太子殿下の側仕えが答えるべきだと視線を向けます。
「思いっきり踏みつけて差し上げれば……」
「拾って、近くの者に本人の届けるように命じてください! リカルド様! ランドルフ王太子殿下の悪評が流れそうなことを勧めないでいただきたいものです」
ランドルフ王太子殿下の立場が悪くなりますと、アリアお嬢様の立場も悪くなってしまうのです。それは婚約を解消してからにして欲しいものですわ!
「いや〜。俺はイーリアに愛されているなぁ」
「イーリアの婚約者は私ですのに、嫉妬してしまいますよ」
「馬鹿殿下。その口を閉じでくださいませ!」
この国の王太子は八割方馬鹿である。これは昔から変わらなかったのです。そう、昔から。