第34話 ネズミにはサッソザイが有効?
「るーたんは先輩。だから、るーたん先輩と呼ぶ」
私は面倒なことはさっさと終わらすことに限ると考え、今日中に乳母の者が書いたという手記を複製して持ち出すことにしました。
なのでルシア様に第二側妃の離宮に案内してもらうことになったのです。が、流石に皇女様を『るーたん先輩』とは呼ぶことなどできません。
「あの……ルシア様では駄目でしょうか?」
「るーたんはイーたんの先輩」
これは先輩と呼んで欲しいのでしょうか?
「それではルシア先輩でどうでしょう?」
「……まぁ許す」
許可がでました。本当にルシア様について行って大丈夫なのか不安にかられますが、王城になど来ることはありませんでしたので、道案内してくれる方は必要です。
「ここでの注意事項を言っておく」
「はい」
……私が返事をしたのに、ちらちらこちらを見てきます。どうしたのでしょう?……あ。
「はい。ルシア先輩」
すると薄っすらと口角があがりました。どうやら先輩と呼ばれたかったようです。
「ランドルフ様の離宮はネズミがいっぱい。だから見つけ次第駆除する」
「あの? ネズミであれば、殺鼠剤でも置いておけばいいのではないのですか?」
ネズミ被害はどこにでもあります。捕獲する罠も仕掛けるのですが、なかなかかかりません。それに捕まえようとしても素早いので捕まえられないので、置き型の殺鼠剤が今の所一番効果が高いと思います。
「サッソザイ……? 置き型? 確かに人が通らないところになら有効?」
あら? もしかして毒物になるので王城ではその辺りの取締が厳しいのでしょうか? ルシア様は殺鼠剤が何かわかっていないご様子。
「侵入したところで、致死量の毒を塗った矢が飛んでくれば仕留められる」
……なにか物騒なことを言っておられますわ。
「ルシア先輩。ネズミの話はわかりましたわ。後日私が殺鼠剤を用意しておきます」
「ならいい。見つけ次第。始末。これ大事」
そうですわよね。ネズミは駆除しても駆除しても湧いてでてきますものね。特に食料庫になど侵入された日には悲劇ですもの。
「あ、ここからは庭を通る」
今まは離宮の中を通っていましたが、外に出ると離宮沿いに屋根のついた外廊下があるのです。しかしルシア様はそのまま真っすぐと進み、葉を散らした木々の庭を進んでいきます。
「近道なのですか?」
「違う。ネズミを見つけた」
え? 流石に庭にいるネズミを捕まえるのは至難の業ですわよ。私がそう思っているとルシア様の姿が消えました。
どこに行かれたのですか?
私が視線を辺りに巡らせているとくぐもった男性の声が聞こえてきました。そして枯れ葉の上に重量物が落ちる音が続きます。
あれ? もしかしてネズミというのは侵入者という意味だったのですか?




