第30話 可愛い過ぎるので却下です
「私が仕えるのはアリアお嬢様なので、ここでは働きません」
私はきっぱりといいます。
「それから下ろしてください」
「元々人手が足りないので、空き部屋はいくらでもありますよ」
「ここに居るのは乳母という人の手記を取ってくるという依頼のためです。ここで働くためではありません」
「いずれは、アドラディオーネ公爵令嬢はランドルフ殿下に嫁ぐのです。早いか遅いかの問題ではありませんか」
「全然違いますから。それから下ろしてください」
何故にサフィーロ伯爵の膝の上で抱えられている状態になっているのですか? 先程から身を捩ってもびくともしないのですけど!
「でしたら、ドジっ子を抜いた感じで私にお茶を淹れてください」
「嫌ですよ。あれは演技ですから」
「ランドルフ殿下だけ、ずるいではないですか」
「何もずるくはないです」
「可愛いイーリアに、お茶を出してもらうなんて」
「ルシア様の方が可愛いので、ルシア様が淹れたお茶をお飲みになればいいと思います」
そのルシア様といえば、何故か紅茶をなみなみと注ぐ練習をしているのです。そして、『溢れた』とか『飛び散る』と言って何度も繰り返しています。その残骸がテーブルの上に並べられていました。
「あの子は当分の間、あれにハマっているでしょうから、淹れてはくれませんよ」
流石兄と言うべきでしょうか、謎のルシア様の行動を理解している。
そしてランドルフ殿下と言えば、瞬時に結界を張ろうという無駄な努力をしていました。私の使う魔法は母直伝ですので、長々とした詠唱は破棄している仕様なのですよ。
「はぁ、このままでいいので、詳しい今後の話をしていただけません?」
場の雰囲気に抵抗する気力も失せて、さっさと目的を完遂して、アリアお嬢様の元に戻ろうと決意します。
「本当であれば、数日の間第二側妃が住まう離宮に滞在してもらおうかと思っていましたが……」
はい、そのような話でしたよね。しかし、何か状況が変わったのでしょうか?
「イーリアが可愛いすぎるので却下します」
「意味がわかりません」
「意味わからなくない。レイムの血は可愛いもの好き。ルーたんはぬいぐるみが好き。部屋いっぱい。お母様はお猫様が好き過ぎて猫妃だなんて言われている」
それ馬鹿にされていませんか?
それに可愛いもの好きの血とはなんですか? そんなものあり得るのですか?
「竜は光り物好きと言われているから、それが影響しているのでしょう。ルシアの部屋はぬいぐるみに埋もれているので、時々どこにいるかわからないことがありますね」
……竜の光り物好きとレイム族の可愛いもの好きは、何か違う気がします。ですが、この話からいけば、好きなものをとことん集めてしまう習性があると言われている気がします。
あれ? もしかして唐突に私に婚約の話を出してきたのは、こういうことだったとか言いませんわよね。




