第3話 給仕のメルティ……それって誰よ?
私は先程まで着ていた青色のドレスを脱いで、給仕をする者のメイド服に着替えます。
姿鏡をみると一つに丸めた黒い髪に紺色のメイド服が私の存在感を薄くしてくれています。
ただ、血のような赤い瞳が私の存在感を際立たせていました。その赤い瞳を覆うように黒縁の眼鏡をかけます。
すると更に私の存在感が薄くなりました。
これは別の者に見せる魔道具だそうです。なんでも見た者の記憶の中で、見た記憶があるようなという曖昧な人物の姿に見えるそうです。
しかし、私の目には私がはっきりと映っており、効果を発揮しているのかわかりません。
「よく似合っていますよ」
耳元に聞こえた声に向かって、左手を大きく振り上げる。背後に向かって振り上げたものの、その手は空を切り銀色の色が視界を占めました。
「勝手に入って来ないでいただけますか?」
婚約者といえども着替えている部屋に入ってこないで欲しい。それも気配を消してだ。
「おや? イーリア。準備はできているではないですか。とても可愛いですよ」
「それは馬鹿にしています?」
22歳になっても可愛いなど……それにメイド服を着ているのが可愛いなど……絶対に馬鹿にしていますよね。
「馬鹿になどしておりませんよ。これをサイドレイズ近衛騎士団長に」
私が渡されたのは一本の酒瓶でした。これはからり強い酒が入っていますわね。
「次は近衛騎士団長ですか? 世代交代に余念がありませんね」
「我が主のためですから」
その主は誰のことを指しているのでしょうかという問いは口には出さない。それは私の身の破滅を意味する言葉ですから。
「わかりました。ときに次の近衛騎士団長の推挙はされているので?」
「ええ、もちろん」
「そうですか」
私はそれだけを言って、お酒が入った瓶をグラスと共にトレイの上に乗せて部屋をでます。
私は盛り上がっているパーティー会場に潜り込み、とある人物を探します。
いました。
王城の警備を任されている近衛騎士団長です。なぜ、貴方がパーティー会場にいるのでしょうか?
このような場合多くの貴族が集まっている会場の周りの警備をすべきではないのでしょうか?
血筋だけいい無能は嫌いですわ。
「近衛騎士団長様」
私は一度も剣を振るったところをみたことがない近衛騎士団長に声をかけます。
「おや? メルティじゃないか」
「はい。メルティです」
誰です? メルティとは? 一応合わせておきましょうか。
「とあるお方から近衛騎士団長様にとお預かりしました」
私は笑みを浮かべて、お酒が入った瓶を掲げます。
「おお! これはパディニュー産のワインではないか」
近衛騎士団長は喜んで、その瓶を受け取った。しかし中身はワインではありませんよ。