第29話 ルーたん仕様でお茶を出す
「お兄様が認めても、ルーたんはみとめない。今の姿のままでいいから、ドジっ子ルーたんでランドルフ様にお茶を淹れる」
ルシア様は、既にポットの中にお湯が入っているティーセットを銀のトレイの上に載せて私に差し出してきました。
これは私が、第二王子の元で潜入調査ができるかどうかを見たいということですわね。
しかし、ドジっ子をしていても許されるってどういう人物でしょうか?
ふと、母の言葉が脳裏をよぎります。
『男に媚を売る女は要注意よ。……どんな女かって?……そうね?鼻声で、上目遣いで男に媚を売る感じね。あと、抜けている馬鹿っぽさもあるわね。まぁ、そんな女は周りを巻き込むから、離れておきなさい』
鼻声と上目遣いはいけますわね。抜けている馬鹿っぽさって何かしら?馬鹿は馬鹿でないのかしら?
まぁ、いいでしょう。同じ背丈のルシア皇女から、銀のトレイを受け取ります。
そして、ルシア皇女に抱え起こされたランドルフ王子はソファーに腰を下ろして、ニヤニヤとした笑みを浮かべていました。
ええ、やってあげましょう。
鼻声で、上目遣いね。よし。
ランドルフ王子の背後に回って、横から顔を出すように前屈みになって、視線を上げます。
「『ランドルフ殿下。お茶をお持ちしました』」
顔に掛かった横の髪を耳に掛けながら言う。
「うむ」
身を起こして銀のトレイの上にあるティーカップにポットからお茶を注ぎます。空気を含ませるように上から落とすように注ぎます。
「む……おい……それ以上は……」
何か横から声が聞こえますが無視です。カップの縁から溢れ出す紅茶。ソーサーまでもなみなみと満たしたところで止めます。
「『殿下への想いが溢れてしまいましたわ』」
ソーサーまで、なみなみと注がれた紅茶は表面張力のみでもっています。
それを持ち上げ、テーブルに置こうとしたところで、ランドルフ殿下にぶち撒けました。
と、見せかけつつ、テーブルとランドルフ殿下の間には結界を張っていたので、殿下には一滴も掛かっていません。
私は床にしゃがみ込み、唖然としているランドルフ殿下を見上げながら、右手を取ります。
「『殿下。私の想いが殿下に向かって行っただけなのです。許してくださいね。てへぺろ』」
すると私が握っている手が背後から取られ、身体が宙に浮きました。
「え?」
「素晴らしいです。即採用です。明日からと言わず、今日からこの離宮で一緒に働きましょう」
何故にサフィーロ伯爵に抱えられているのですか?
「くっ。ルーたん、敗北を認める」
そして何故か敗北宣言をしているルシア様。
「あの瞬間で結界を展開して解除できるのか。それも殆ど魔法の痕跡がない」
ランドルフ王子は私の展開した結界に気付いて、唸っていました。あれに気づける人はめったにいませんのに、馬鹿でもステータスが高いだけはあります。
王子への溢れた想いは、何でしょうかねw




