第24話 母の血が憎い
私は今、羞恥心に耐えています。
そう……この状況。この状況は耐え難いです。
「もう、いいと思うのです」
「駄目ですよ」
「私は床でいいと思うのです」
王城の敷地内に入ってからが長いです。
今までは石畳だったのに、いつの間にか地道に変わり、馬車の揺れが大きくなっているのです。
何故に王城の敷地の中なのに、地道なのですか!
そして馬車の床につま先しかつかない私は、腹筋で振動に耐えるか、床に転がるかしか選択肢がないというのに……サフィーロ伯爵の膝の上に抱えられているという状態に!
母の血がこれほど憎いと思ったことはありません。
母が父の胸辺りまでしかないということは、母に似ている私も身長が低いということなのです。
「そもそも馬車がこんなに揺れるなんてありえません!」
それは小石を踏んだり、凸凹した道なら振動は響いてきますが、私がバランスを崩すまで揺れるのはおかしすぎます。
それに今思うと、アルベント伯爵家の馬車の座席は母に合わせて作られていたのだなと、とても実感しています。
足がつくように浅く座れば、振動で後ろにひっくり返り、深く座れば足が届かない。
なんと屈辱的状況。
最後に王城の敷地に入ってからの振動の酷さで、身体が宙に浮く始末。
整備した者に文句を言うべきです。
「風の噂で聖女様仕様の馬車の話を聞いたことはありますが、なんでも空を滑るような乗り心地だと。私も一度は乗ってみたいものですね」
「え? それもお母様仕様でしたの?」
まさか、母が言っていた『王家が使用する馬車よりは良い』というのは外装や内装のことではなく、馬車の仕様のことだったのですか!
父は母のこだわりは普通よりズレていると言っていますが、私は母に賛同します。馬車は揺れないほうがいいに決まっています。背が高い父には一生わからないことでしょうがね。
「はぁ、姉のように大きくなりたかった」
ぽそりと心の声が漏れてしまいました。
二つ年上の姉は私より頭一つ分背が高く、父に似て美人なのです。私は姉が羨ましいといいますが、姉は私の方が羨ましいと言います。
背が低いより、高い方がいいに決まっているではないですか。
「イーリア嬢は可愛いので、このままでいいのですよ」
「私の独り言を拾わなくて結構です。それから、子供じゃないので、頭を撫ぜないでください」
「レディというのは十分承知していますよ」
……そう言いながら、頭を撫ぜる手を止めないのはどういうことですかね。
頭を撫ぜる手を払いのけようと上げれば、すっと手が空を切ります。
はぁ、何気にサフィーロ伯爵も第一王子と同様に、スペックがかなり高いのですよね。




