第18話 婚約の理由
「ああ、これは父の許可があるという証明書のようなものです。私はランドルフ殿下に仕える者ですから」
どこまでが真実かわからない言葉ですが、ここに書かれたサインは本物だと私の鑑定スキルが証明しています。
そして婚約届に書かれた内容が曲者です。
私がどのようにして情報を得たか開示するようにと。
これはサインをしなければ無効のはずですが、皇帝のサインがされている物を無視するという行為もできません。
そしてもう一方は国王陛下のサインが既にされいる婚約届です。私が先程見た公爵様がサインされていた用紙には国王陛下のサインする場所はあったものの、サインはされていませんでした。
ということは、これも私が拒否することができない書類になります。
「この婚約の本当の意味を確認してもよろしいでしょうか?」
私はただの伯爵令嬢に過ぎません。それなのに、ここまでされる理由はありません。
すると私の両手を掴まれてしまいました。
「貴女の才能に惚れ込んだからです」
……なに? 私の才能って?
私より母の方が才能があります。聖女と言われるだけあって、治癒魔法など右に出る者はいないほどの使い手ですし、結界などドラゴンをも凌ぐと聞いたことがあります。
それに比べて私は凡人にしか過ぎません。
「ハイバザール侯爵領を三年で復興させた手腕。巷ではハイバザール侯爵の功績になっていますが、税徴収役人は誰もが貴女の名を出していました」
……それ何度も喧嘩したからではないでしょうか?
ハイバザール侯爵領は十年前に災害が襲い、壊滅的な被害をうけました。その支援として私の婚約と復興資金が決められ、私がハイバザール侯爵領の復興に携わっていたのです。
しかし税徴収役人は容赦なくやってきます。
この被害状況が見てわからないのかと何度押し問答をしたことでしょう。勿論、口で打ち負かしましたけどね。
「それでハイバザール侯爵は無用になった貴女を手放したということです」
ええ、私の言い分を聞いてもらえなかったことと、私が全て悪いと押し付けたことから、わかっていました。
そして、結局この婚約もそうでしょう? 第一王子の王太子としての立場が確立されれば、私など無用になるでしょう。
所詮私など、母と比べたら凡人の域からでません。
「それから父も聖女マリー様の名は存じていましたよ。それで二つ返事でサインをしていただけました」
「私は母ほど才能はありません」
「普通であれば、ランドルフ殿下に一発も当てることはできませんよ」
……それを言われると、ぐうの音も出ません。ええ、第一王子のスペックの高さは確認済みですから。
「これでサインしていただけますね?」
そう笑顔で言わないでいただけますか?
「婚約解消するのであれば、アリアお嬢様に被害がないようにお願いします」
私は婚約解消を前提にサインをするのでした。




