第15話 冬のバラの種明かし
「答えられませんか? では、あのバラをどうやって作ったか教えていただきませんか?」
これはバラの作り方を教えるのであれば、深く追求しないということでしょう。
私は温室の中に生えている変哲も無い草を手に取ります。そして、それに魔力を込めます。
光に覆われた草は光が失われると赤いバラが私の手の中にありました。
「幻影術の応用です。一日ほどしか保ちませんが。アリアお嬢様のモノはバラの髪飾りを生花に見せているだけです。本物ではなくて残念でしたね?」
「すごいですね。間近で見ても本物とかわりません」
私の手の中にあった幻影のバラはいつの間にか、サフィーロ伯爵が持って観察していた。
私の魔法の殆どは母から教えられたもので、普通の魔法とは違うのです。
あっ。そう言えばその昔……『イーリア。これが正拳突きよ!これがあれば大抵のモノは倒せるの!』と幼い私は母から教えられた記憶が……。
「これができるの言うのであれば、貴女自身にこの変化の術をかけることは可能ですか?」
「……できますが? それと別の術との併用は無理です」
何をさせたいのかはわからないですが、一度肯定してから、難しいと言う。これは全てを否定するには無理があるからです。
そう、目の前の人物も何かしらの変化の術を使っているはずなのですから。
「それは素晴らしい! 取り敢えずその変化の術を使って第二側妃のところに潜入しませんか?」
「お断りします!私はアリアお嬢様の侍女だと申しております」
誰が第二側妃の内情調査になどにいきますか!
「そのアリアルメーラ公爵令嬢様のためでもありますよ?ランドルフ殿下は何かとアリアルメーラ公爵令嬢様を気にいっておられますからね。このまま婚約することになりましょう。そうなるとアリアルメーラ公爵令嬢様も今まで以上に狙われることになりますよ?」
……十六歳になられる第一王子に婚約者がいなかった理由です。普通なら十歳前後には婚約者が決められることでしょう。
今まで婚約者候補の方々が幾人かいらっしゃいました。その中で今現在生きておられるのがアリアお嬢様だけとなってしまわれましたので、婚約する流れになったそうです。
それは病死であったり、事故であったり理由は様々です。
しかし、それとこれとは別の話です。
「それは私やアリアルメーラ公爵家でお護りすればいいことです。王家のゴタゴタはそちらで片付けてください」
「これは手厳しいですね。それでは……」
赤いバラの幻影をかけた物を私の髪に挿し、右手を取ってきました。
「私の婚約者になっていただけませんか? イーリア・アルベント伯爵令嬢」
「は?」
何が『それでは』になるのです! 全く話が繋がっていませんわ。それに……
「シュトラール帝国の第二皇子という身分を隠して、そんなことを軽々しく口にしないでいただきたいものですわ!」




