第123話 茶番劇を見せられる私。
私の前で茶番が繰り広げられています。
死んだ魚の目をしながらランドルフ王子の側に立つ私。
「それではマルメイヤー公爵。貴殿が王家を乗っ取ろうとしたということか!」
「そのとおりである」
そう答えるのは、奇抜な貴族の服を身に着けたルシア様。それも男性物です。
その言葉に、母により元の場所に戻された貴族たちがざわめき出す。
「王家への反逆は王族を離れたマルメイヤー公爵を反逆者とみなす! 衛兵! 公爵を捕縛しろ!」
「やめろー! 貴様に私の積年の恨みがどれほどのものかわかるまい! 私が真の王なのだ!」
ロープで縛られて連行されていくルシア様。
そして皆の動揺を抑えるように手を上げて人々の視線を集めるランドルフ王子。
私はこの茶番劇のことは何も聞いていませんでしたわよ。それに私には姿換えの魔道具の効力はないのです。事前に言って貰わないと、突っ込むところでしたわ。
「改めて皆に紹介したい者がいる」
背後の扉が開かれる音が聞こえ、私はランドルフ王子の背後に移動し深々と頭を下げます。
「紹介しよう。私の婚約者のアリアルメーラ・アドラディオーネ公爵令嬢だ」
拍手と共にざわめきが大きくなります。そうですわよね。騙し討ちのように、第一王子と伯爵令嬢との婚約だなんていう謳い文句で開かれたパーティーですものね。
正確にはランドルフ王子とアドラディオーネ公爵令嬢と、その側仕えである伯爵令嬢とサフィーロ伯爵の婚約発表なのです。
紛らわしいのよ。バカ王子。
しかし、それで大きな魚を釣りたかったのでしょう。
「そして私達を支えてくれる者たちだ。サフィーロ伯爵とアルベント伯爵令嬢の婚約も報告しておこう」
そうランドルフ王子から紹介されて、集まった人たちは納得したように盛大な拍手をしています。
ただ、ここに行き着くまでの茶番劇を思うと、なんともいえません。
はい。あのあと突然母が言いだしたのです。母の足元には得体のしれない物体があり、それを足蹴にしながらでした。
「来場者の記憶を殿下が登場した時点まで改ざんしておくから、あとは好きなようにしなさい」と。
「ご配慮。痛み入ります。聖女マリー様」
ランドルフ王子は、すべてを了承したと言わんばかりに、母に向って頭を下げたのです。
「マリー。ヘビは袋に詰めたけど、一度焼いておく?」
「それよりも聖水に漬け込んだほうが良いのではないのかのぅ」
母の側では、後始末をしている父と祖父が怪しいことを言っています。あれって死なないのでしょうか?
それよりも、私は気になることがあるのです。
「リカルド様。ドラギニアのことについて知りたいのですが……」
するとリカルド様は、嬉しそうに笑みを浮かべて私の両手を取ってきました。
「私たちのことに、興味を持ってくれたのですね」
「興味というか、今回のことはそれが関わってくるのですよね?」
「しかし、それは後でもよろしいでしょうか? 先にしておかねばならないことがあります。ルシア」
ルシア様が、リカルド様から指示をもらって頷いたかと思えば、何処かに消えさり、怪しい邪神とかいう残骸は父と祖父が回収し、私とランドルフ王子しか居なくなった会場に、人々が戻されたのです。
記憶を母によって改ざんされた招待客がです。
「やっぱり。マリー様は恐ろしいな」
そんな、ランドルフ王子の漏れ出た心の声を聞いたのは、私だけでした。




